高齢者の安全と権利擁護のため「高齢者虐待防止法」という法律があるのはご存知でしょうか。
この記事では、高齢者虐待防止法で定義されている虐待について解説していきます。
医療や福祉の仕事に従事している方に関わる、早期発見の義務や通報の流れについても
解説していきます。
この記事を参考に、医療や福祉関係者のみならず、地域全体で虐待のない社会を
目指していきましょう!
目次
まずはじめに、「高齢者虐待防止法」という名前は聞いたことがあるけど、
くわしくは知らないという方に向けて、高齢者虐待防止法とは、「いつからあるの?」
「どんな内容なの?」というところを解説していきたいと思います!
高齢者虐待防止法とは、「高齢者に対する虐待を防ぎ、保護するための措置や支援について
定めた法律」で、2005年に制定され、2006年4月1日から施行された法律です。
正式名称は「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」と言います。
主に、高齢者虐待防止に関する国の責務や養護者への支援、医療従事者・福祉従事者による
早期発見の努力義務などが明記されています。
日本の法律では、65歳以上の人を高齢者と定め、高齢者虐待を「養護者によるもの」と
「養介護施設従事者によるもの」に分けて定義しています。
※養護者=介護・世話をする立場にある家族や親族を指します。
※養介護施設従事者=定められた施設や事業に従事する人を指します。
高齢者虐待防止法で、高齢者虐待として定義されているものには、
「身体的虐待」「心理的虐待」「経済的虐待」「性的虐待」「介護・世話の放棄・放任」
の5種類があります。
ここからは、そんな5種類の高齢者虐待について1種類ずつ解説していきます!
身体的虐待とは、高齢者の身体にケガが生じる。
または生じるおそれのある暴力を加えることを指します。
さらに、ケガだけでなく「外部との接触を意図的に断つこと」も身体的虐待として定義されています。
身体虐待の例
・なぐる、蹴る。
・やけどを追わせる。
・無理やり口に食事をいれる。
・身体拘束や抑制をする。
※身体拘束は禁止とされているが、利用者の命や身体を守るためにやむを得ない場合は、
身体拘束が認められる場合があります。
身体拘束を認めるには厳重なルールがあり実施には「切迫性」「一時性」「非切迫性」
を満たし慎重に実施されている場合に限られます。
心理的虐待とは、高齢者に暴言を吐いたり無視をしたり、著しく拒絶的な対応をしたりすることで、
高齢者に心理的外傷を与えることを指します。
心理的虐待の例
・高齢者を怒鳴ったり、ののしる。
・高齢者に対して悪口を言う。
・高齢者を無視する。
・排泄などの失敗を攻め立てる、あざ笑うなど高齢者に恥をかかせる。
心理的虐待が起こりやすくなる背景には、在宅での介護にストレスがショックが
大きくなり余裕がなくなっている。
職場であれば職員間でハラスメントが横行していたりお互いに相談ができない環境にあるなどが、
心理的虐待の起こりやすくなるサインと言われています。
経済的虐待とは、養護者や親族が、高齢者の財産を不当に処分したり、
高齢者から不当に財産上の利益を得たりすることを指します。
経済的虐待の例
・正当な理由なく、生活費や金銭などを与えない。または制限をする。
・自宅や車を勝手に処分、売却する。
・年金や貯金を高齢者の意思、利益に反して使用する。
在宅介護では、高齢者の年金や貯金を使い込んでしまった結果、介護サービスの利用料に
滞納が生じた例などがあります。
また、施設介護では施設サービスを利用した高齢者の貴重品や金銭を横領し、
刑事罰に問われた事例などがあります。
性的虐待とは、高齢者にわいせつな行為をする。または高齢者にわいせつな行為を
させることを指します。
性的虐待の例
・性的な行為を強要する。
・不必要に高齢者の身体や性器を触る。
・排泄の失敗に対し、懲罰的に衣服を着用させず放置する。
・排泄介助や入浴介助時にひわいな言動をあびせる。
施設介護などであれば、集団生活を行う上でプライバシーの確保が難しい場合があります。
車いすを利用したり介助がしやすいようトイレにドアがなくカーテンで仕切りを
していたり、浴室のドアやカーテンを開け放した状態で介護を提供してしまい、
高齢者の裸が丸見えな状態であったりなども場合によっては性的虐待になる可能性があるため、
忙しいから、他の人も見ないといけないから、という理由を先行させすぎず業務を遂行する必要が
あると言えるでしょう。
介護・世話の放棄・放任とは、ネグレクトも呼ばれます。
いちじるく食事を減らす、高齢者を長時間放置する、養護者以外からの虐待を見て見ぬふりする
など、養護を著しく怠ることを指します。
また、それらが意図的なものか、結果的なものかは問わず虐待となります。
高齢者の生活環境や身体、精神の状態を悪化させる行為が該当します。
介護・世話の放棄・放任の例
・高齢者を入浴させずに悪臭がしている。
・水分や食事を提供せず、栄養失調や脱水症状が見られる。
・ごみが放置されたまま、清掃がされていないなど、劣悪な環境を放置する。
ここまで、高齢者虐待防止法についての基礎知識として、法律が制定・施行された年や
内容について、そして、身体的虐待、心理的虐待、経済的虐待、性的虐待、ネグレクトの5種類
についても解説しました。
ここからは、実際に高齢者虐待を発見した場合、どういった流れで進むのか、
発見時にどこに通報すればよいのかについて解説していきます。
高齢者虐待を発見した場合、すみやかに通報することが求められます。
もしも、職場や地域などで虐待を発見した場合(または可能性がある場合)は
「市区町村の担当窓口」か「地域包括支援センター」に通報しましょう。
通報を受けた相談先が、虐待の可能性について協議し、事実確認のための情報収集を行います。
収集した情報を元に、施設や居宅を訪問するほか、関係する人物からの聞き取りなどを行います。
その後、情報を整理したり、虐待の有無、緊急性の判断、対応方針の決定
がなされ、ケースごとに対応を行っていくという流れになります。
高齢者虐待防止法には、虐待の早期発見と早期対応を図るべく
「通報したことを理由に解雇やその他の不利益な扱いを受けない」という規定があります。
※虚偽の通報・過失による通報は除く。 ※虚偽・過失の通報は罰則対象となり、
1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が課せられます。
そして、通報を受けた市町村の担当職員や地域包括支援センターの職員にも
「守秘義務が課せられる」ため、通報者に関する情報が漏れることはありません!
虐待を発見したかもしれないが通報したことが知られると困る、逆恨みなどが怖いということで、
虐待を見逃さないために厳格なルールがあるのは安心ですね。
また、虐待の事実確認のための立ち入り調査を拒んだり、嘘をついたり、
嘘をつかせたりした場合も、30万円以下の罰則が課せられます。
そのため、通報した後もしっかりと調査をして虐待を防ぐ、または繰り返さないための
措置がしっかりと講じられれています。
高齢者虐待防止法には、医療・福祉従事者の責務や未然に防ぐための対策に
ついても定められています。
ここからは、「高齢者虐待の早期発見の努力義務」と「高齢者虐待を未然に防ぐための対策」
にわけて解説していきます。
高齢者虐待防止法の第5条では、「医療・福祉従事者の努力義務として、
高齢者虐待の早期発見に努める」ことが記されています。
養介護施設、病院、保健所、その他高齢者の福祉に業務上関係のある団体及び
養介護施設従事者等、医師、保健師、弁護士、その他高齢者の福祉に職務上関係のある者は、
高齢者虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、高齢者虐待の早期発見に努めなければならない。
「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律 第5条より」
高齢者虐待の早期発見・早期対応と同様に大切なのが「高齢者虐待を未然に防ぐこと」です。
そのために大切なポイントは以下の通りです。
介護にかかる不安やストレスから、高齢者虐待に繋がるケースも多く、
その状況を抱え込まず助けを求める、つなげる力も虐待防止のために
とても大切となってきます。
この記事では、高齢者虐待防止法の基礎知識や5種類の虐待、発見時の流れと通報先について
解説をしました。
また、医療・福祉従事者に関わる高齢者虐待の早期発見と対応についての努力義務、
高齢者虐待を未然に防ぐためのポイントについても解説をしました。
高齢者の介護は、不安やストレスが大きくなることも多く、高齢者虐待に繋がる原因にもなり得ます。
ひとりで介護の悩みを抱え込まず、地域の力や周りの協力を得て、
高齢者も養護者も安心・安全に暮らせる社会を目指しましょう!