親が高齢になり、病気や障害を理由に介護が必要になった時、急に重くのしかかる
「親の介護」という負担。
子としても、自分の生活がある中、親の介護となるとストレスや不安が急激に
増えるのは辛いものです。
また、親とも疎遠であったり仲違いをしていたりという理由で親の介護をしない方法は
ないものか?と悩まれる方も少なくないでしょう。
この記事では、「親の介護をしないとどうなるか」「事前にできる対策や負担軽減の方法」
についてご紹介していきます!
目次
「介護放棄」とは、介護が必要となった高齢者に対して行われる虐待のひとつです。
日常生活上の介護を放棄、拒否、怠慢することで生じる虐待と定義されています。
日常生活をおくるために必要な介護を養護者が放棄することで、
身体的、心理的な暴力行為を働いているとみなされます。
この介護放棄が続くということは、要介護者は日常的に無視、放置、拒否されることとなります。
また、「親の介護を放棄した」となると民法に定められる「扶養義務」という
法律も絡んでくるため、より重い罪に問われる可能性もでてきます。
親の介護を放棄してしまう事案は、実は少ないケースではありません。
介護放棄に至ってしまう理由には、様々な原因がありそのなかでも多い理由が、
「金銭的な理由」「親との関係性」「心身の負担や時間的な問題」の3つです。
ここからは、この3つの理由についてそれぞれ詳しく見ていきましょう。
介護放棄に至る主な理由1つ目は「金銭的な問題」です。
在宅での介護を支えるために、様々な介護サービスが存在します。
これらの介護保険サービスには要介護度に応じて、利用限度額が定められているものの、
1割〜3割は自己負担をしなければなりません。
養護者やその家族の生活もある中、さらに介護に関する金銭的な負担が増える・親が財産を
残していなかったなどが重なると、 養護者は経済的に厳しい状況に陥り、
介護放棄に至ってしまう原因となることもありえます。
親の介護放棄をしてしまう主な理由2つめは「親との関係性が良くない」です。
要介護者となった親と養護者である子どもの関係性が悪いと、たとえ介護が必要と
なっても子どもは「親を介護したくない」と思ってしまいます。
また、親との関係が悪くないとしても必ずしも「親の介護をしたい」と思うとは限りません。
親との関係性が良くないという理由に、経済的理由が重なり複合的な要因から、
親の介護をしたくないという理由に至る場合や、 介護が必要になった際に、
親の経済的理由が露出し、そこから親との関係性が悪くなってしまい、
介護放棄に至る場合などもあります。
親の介護放棄をしてしまう主な理由3つ目は「心身の負担や時間的な拘束」です。
親に介護が必要になると、時間が経つにつれて状態が悪化することも多いです。
状態が悪化すると介護にかかる時間を増え養護者の拘束される時間も増えてしまいます。
認知機能の低下や、身体機能の低下が進むと介護にかかる時間も増え、
変わっていく親の姿を目の当たりにしながら介護をするのは心身の負担も測りしれません。
養護者の身体的や精神的な負担が増え続け、そのストレスや披露から介護放棄に至る
原因となってしまいます。
現に、厚生労働省によると介護度が上がるにつれて、介護放棄の割合も増える傾向にある
というデータもあります。
ここまで、介護放棄とは何かという、基礎知識を紹介し、親の介護を放棄してしまう
主な原因を3つ紹介しました。
ここからは、実際に「親の介護をしないとどうなるのか?」について法的な
観点からご紹介をしていきます!
介護放棄の中でも、「親の介護」となると虐待以外にも「扶養義務を全うしなかった」という
法律違反も生じてきます。
扶養義務とは、民法第877条第1項において「直系血族及び兄弟姉妹は、
互いに扶養をする義務がある」と定められているものです。
扶養義務には、相続放棄のように遺産の相続を放棄する手続きも存在しないため、
「法律上、親の介護は放棄できない」という結論に至ります。
また、「親と絶縁している」など個別に抱える事情は、家庭裁判所での調停時の
考慮材料にはなりますが、こちらもやはり「親の介護を放棄できる理由にはなりません」
前述した通り「法律上、親の介護を放棄できない」にもかかわらず介護放棄をしてしまった
場合は「保護責任者遺棄罪」に該当し罪に問われる可能性があります。
「保護責任者遺棄罪」が認められると「3ヶ月以上、5年以下の懲役」に科せられる
可能性が出てきます。
さらに、介護放棄をした結果、親がケガをした場合は「保護責任者遺棄致傷罪」、
介護放棄をして親が死んだ場合は「保護責任者遺棄致死罪」となる可能性があります。
保護責任者遺棄致傷罪の場合、「3ヶ月以上、15年以下の懲役」
保護責任者遺棄致死罪の場合、「3年以上、20年以下の懲役」を科せられる可能性があります。
これらは、育児放棄の問題でよく耳にする罪状ですが、親の介護放棄にも適用されるというわけです。
ここまで、親の介護放棄とその主な理由について解説をしました。
親の介護は、養護者にとって身体的、精神的、経済的にも負担の大きいものであることが
理解できます。
では、親の介護を放棄せずとも、親の介護をできるだけしない方法や負担を分配、
軽減する方法あるのでしょうか?
ここからは、養護者の負担を軽減するための観点から、親の介護の負担を軽減する方法に
ついて解説していきます。
親の介護の負担を軽減する方法、1つめは「兄弟姉妹・親族にお願いし負担を分け合う」
という方法です。
前述した扶養義務について実は「法律で扶養義務者の優先順位は定められていない」のです。
仮に子どもが3人いれば、3人の子ども全員に扶養義務が生じます。
この際の優先順位に「同居の有無」や「兄弟姉妹の年齢」は関係ないのです。
このように、兄弟姉妹に等しく扶養義務があるため、兄弟姉妹や親族がいる場合は
「介護の負担も分けあって」協力するのも方法のひとつです。
親の介護にかかる負担を減らし介護放棄に至らないようにするために、
介護サービスを利用することは大きな手段のひとつです。
介護サービスには色々な種類があり、自宅から施設や病院に通いサービスを受ける「通所系」、
自宅に専門職が訪れ介護やサービスを提供する「訪問系」、
施設などに数日から数週間の短期入所をして介護や健康管理などのサービスを受ける「宿泊系」
などがあります。
また、要介護認定をうけると「福祉用具のレンタルや購入費の一部が支給」されたり
「住宅のリフォーム費用の一部が支給される」という介護サービスもあります。
要介護度3以上になると特別養護老人ホームなどの長期入居も利用でき終の棲家として
施設で暮らしながら介護を常時うけることができるようにもなります。
費用も自己負担1割〜3割で済むサービスが多く、それでも費用が賄えない場合は
減額や免除を行える制度もあります。
親の介護をする上で、強い味方になってくれるのが「地域包括支援センター」です。
地域包括支援センターとは、「高齢者のための総合相談窓口」というイメージで、
「介護の悩みがあれば、まずは地域包括支援センターに相談」と覚えておくとよいでしょう。
地域包括支援センターでは「住まい」「介護」「医療」「予防」「生活支援」など、
多岐にわたる分野のサービス情報を「包括して提供」してくれます。
原則として市町村に1ヶ所は設置されており、「保健師」「看護師」「社会福祉士」
「主任ケアマネージャー」など「各分野の専門家」がチームとなって、
サポートしてくれます。
※地域包括支援センターの名称は各市町村によって違う場合があります。
親の介護で悩んだ時は、ひとりで抱え込まず地域包括支援センターに相談してみることで、
知らなかった解決方法が見つかるかもしれません。
ここまで、「親の介護をしないとどうなるのか」や「介護放棄をしてしまう主な理由」
「親の介護の負担を軽減するための方法」について紹介をしました。
親の介護によって生じるストレスや負担、介護放棄に至った場合の罰則などを理解したうえで、
ここからは「親の介護について事前にできる対策」について紹介していきます。
家族同士であっても、それぞれの生活があり、家庭の事情や仕事、経済的な理由から
「親の介護への関わり方」は変わってきます。
兄弟姉妹や親戚間で気持ちを確認し、状況に配慮しながら「自分には何ができるのか」を
中心に話し合い、誰が主な介護を担うのか、それ以外の親族はどのようにサポートをするのかなど、
役割分担を事前にしておくことはとても大切です。
親の介護の負担を分担するためにも、急な出来事でトラブルが生じることを回避するためにも、
一度親の介護と役割分担について話し合っておくのも大切です。
介護サービスを利用したり、介護用品を購入するために、お金がどのくらいあるのかという
経済状態を知り、見通しを立てておくことは大切です。
親の経済状態がどのような状態なのか、預貯金や財産はどのくらいあるのかという
話し合いも事前にしておきましょう。
なぜ、事前に話し合うことが大切かというと、「親が認知症になった場合」自分で
財産の管理をすることが難しくなることが想定されるからです。
預金や借入金がどのくらいあるのか、通帳や印鑑の保管場所を決めておく、
などを確認しておくと、どのくらいを介護費用にあてることができ、
どのくらいの費用を家族が負担しなければならないのかという見通しを立てることができます。
すでに認知症があったり疾患がある場合は、今の健康状態はどのくらいで、
いつ頃介護の負担が大きくなるのかということを想定しておくためにも、
健康状態についても把握し、話し合ったりする機会を設けましょう。
親の経済的な準備が不十分な場合や、親と金銭面の話し合いができない場合は、
親族間でどの程度負担できそうかを確認し、不足する部分は、民間の介護保険などによって
準備することも検討しましょう。
介護費用がどのくらい必要かという目安として、令和3年度のデータでは、
「月々の費用が平均8.3万円」「一時的な費用の平均が74万円」という結果があります。
介護期間の平均は61ヶ月というデータもあり、これらを組み合わせると
「合計の介護費用は約580万円」にのぼります。
こういったデータも参考に、親族間でどのくらい負担が必要で、どのくらい出し合えるかを
事前に話し合っておくことも対策のひとつと言えるでしょう。
この記事では「親の介護をしないとどうなるのか?」という疑問について
「介護放棄と扶養義務」の観点から説明を行い、
「親の介護の負担を軽減するための方法と事前にできる対策」について解説をしました。
親の介護は、身体的・精神的・経済的にも負担が重くのしかかるものです。
ひとりで抱え込まず、親族や介護サービスの力を借り、負担を減らすことで
介護放棄に至らないようにしましょう。
介護放棄をすると罰則を科せられる場合もあります。
この記事が介護の負担や悩みを抱える方にとっての一助となれば、幸いです!