看護スタッフ・介護スタッフは、病気やケガで入浴が難しい場合に、全身または身体の一部を
清潔に保つため清拭(せいしき)を行います。
介護において、清拭は入浴ができない方にとって重要な役割を持ち、更に期待できる効果も
多くあります。
清拭の目的や注意点、必要な物品など、手順や効果的な介助の方法なども解説していきましょう。
目次
清拭(せいしき)とは、病気やケガで入浴が難しい場合に、全身または身体の一部分を、
適温に温めたタオルで拭くことです。
身体を清潔に保ち、新陳代謝と血液循環を促し、爽快感やリラックスの効果も期待できる
ケアの方法です。
清拭には「全身清拭」と「部分清拭」の2つの方法があり、次のような目的があります。
清拭によって得られる主な効果は次のとおりです。
清拭をはじめる前に以下の物品を準備しておきましょう。
・着替え(下着・上着、スボンなど)
・洗面器
・バケツ
・お湯(50~60℃)
・バスタオル:清拭中に身体を隠したり冷えないようにする
・清拭部位ごとの替えタオル(5~7枚)
・石けん
・使い捨て手袋とビニールエプロン:感染予防のためにスタッフが使用する
・陰部洗浄用のボトル
・必要に応じて塗布薬や保湿剤など
・床濡れ防止のためのビニールシートや新聞紙
清拭の手順は、各病院や施設によっても多少の違いがありますが、基本的には、
血液の循環を促進させるため、心臓から遠い指先などの抹消から心臓に向かって拭くようにします。
それぞれの部位別に詳しく解説していきましょう。
顔の清拭では、顔専用のフェイスタオルを準備しましょう。
鼻→口→額→頬→顎→耳→首の順に拭いていきます。
目元は、目頭から目尻まで拭いてから、まぶたの順に拭きましょう。
目を拭いた後に目ヤニで汚れた場合には、タオルを変えて清潔にします。
皮脂などの汚れがたまりやすいため、小鼻は注意して拭きましょう。
どの部位も顔の中心から外側へ向かって拭くように覚えておくと良いですね。
耳の後ろや首も、忘れずに拭きましょう。
腕の清拭をする際は、心臓より遠い指から順番に心臓に向かって拭いていきます。
手首を軽く支え、指先から手のひら、手首から肘、脇の方向に向かって拭きます。
指の間も丁寧に拭き、肘の内側は円を描くように拭きましょう。
肘を支えて肘から脇の下、腕の付け根に向かって拭きます。
脇の下は汚れや汗が溜まりやすいため丁寧によく拭きましょう。
血行促進のためにも血流を意識しながら末端(手先)から行うと効果的です。
身体の清拭では、胸→お腹の順番に拭いていきます。
清拭中は、手足などが冷えないようにバスタオルをかけてから始めましょう。
鎖骨に沿って上下を拭いた後、円を描くように胸を優しく拭きます。
腹部はおへそを中心に「の」の字を描くように優しく円状に拭いていき、
腹部を温めることと、腸の動きを意識するとマッサージ効果が得られ、便秘予防につながります。
女性は乳房の下に垢や汚れが溜まり、かぶれやすいので、丁寧に拭きましょう。
背中の清拭は、横向き(側臥位)になってもらい、軽く膝を曲げて姿勢を安定させ、
腰→肩→臀部の順番に円を描くように拭いていきます。
背部は、背骨から身体の外側に向かって拭いていき、肋骨や肩甲骨のまわりは骨に沿って
優しく拭いていきましょう。
臀部は片方ずつ、円を描きながら、なでるように拭いていきます。
仙骨部は褥瘡ができやすい部分でもあるため、注意して観察しながら優しく丁寧に
しっかり拭きましょう。
足の清拭では、拭く側の膝を立て、足首から太ももの方向に拭いていきます。
膝の裏→足の指→足の裏の順番で拭きます。
かかとを支えて、くるぶしから膝の裏へ、足の指を一本ずつ丁寧に拭いてから足の裏を拭きます。
陰部の清拭は、男性と女性で手順や動作が違います。
男性の場合は、陰茎→陰のう→肛門の順に拭きます。
女性の場合は、恥骨→肛門へ向けて一方向に拭きます。
汚れがひどい場合は、石けんを使うなどして陰洗をしましょう。
必要物品を整え、清拭の手順を把握しておく他に、次のような注意点があります。
清拭前に体調の確認をし、バイタルチェックをします。
多少でも体力を消耗したり、寒さ・暖かさから血圧の変動がある場合も考えられるため
必ず確認しておくようにしましょう。
清拭中に体勢を変えるタイミングなどで体調の変化に注意が必要です。
利用者の体調によっては部分清拭への変更や、清拭部位の調整が必要になります。
体調のほかにも、皮膚状態のチェックや肌を傷つけないように配慮し、優しく
拭き取るように心がけましょう。
清拭をはじめる前に、はじめることを声掛けし、清拭中も「気持ち悪いところはありませんか?」
「寒くありませんか?」などの声かけをしながら行いましょう。
清拭をおこなう際には、利用者の尊厳を守り、作業スペースが見えないようにカーテンを閉めるなど、
プライバシーを意識した環境に配慮します。
拭いている部位以外はバスタオルで隠し、冷えないようにしましょう。
リラックスした状態で介助を受けられるよう心がけましょう。
全身の清拭を行う場合は温度の差が出ないように室温を暑すぎず、寒すぎない
22~24℃程度の適温に調整しておきます。
清拭中も室温は適温を保つように気をつけましょう。
清拭中は肌を露出するため、寒い部屋では負担となりますし、拭いている間は肌が濡れているため、
すきま風が入るとさらに寒く感じてしまいます。
濡れタオルで拭いた後は身体が冷えやすいため、清拭をおこなっていない場所は
乾いたタオルなどで覆いましょう。
清拭は、基本的に食前・食後の30分から1時間を避けて実施しましょう。
食前・食後の1時間は血糖値や血圧の変動が起こりやすくなり、体調不良を招く恐れがあります。
また、清拭により皮膚表面の血行が促進されると胃腸の動きが悪くなり、消化不良にもつながります。
食事前後以外にも、リハビリなどで体力が消耗している時間帯も避けるようにすると良いでしょう。
具体的には、食前・食後の1時間を避け、清拭を行うのがベストです。
介護や看護における清拭の目的や注意点、必要な物品について、ご紹介しました。
清拭は入浴が難しい方の健康を維持する上で重要な役割を持っています。
看護スタッフ・介護スタッフの基礎知識として必要物品の準備や介助の手順を理解し、
思いやりを持って丁寧なコミュニケーションを意識しながら、スムーズな介助を心がけましょう。