清拭とは?目的や注意点・部分別の手順も詳しく紹介

2024.12.09

清拭(せいしき)とは、入浴が困難な方の身体をタオルで拭くことです。
清拭は、皮膚を清潔に保ち細菌感染を予防することが主な目的です。
また、血行促進や爽快感が得られるなど多くの効果があるとされています。

正しい方法で行えばより効果を得やすくなりますが、間違った方法では健康を害する可能性も
あります。
この記事では、清拭の目的や効果、必要な物品、手順、注意点を解説します。
正しい清拭の方法を知りたい方におすすめの内容です。

清拭とは

清拭とは、入浴やシャワーが難しい介護対象者や患者に対して行う、身体の清潔を保つための
ケアの一つです。
介護や看護の現場では、ケガや病気で安静指示がある場合や、入浴により体力が奪われると
考えられる場合などに清拭を行います。

ここでは、清拭の目的や効果、種類を解説します。

   清拭の目的と効果

  • 目的
    清拭の主な目的は、介護対象者の身体を清潔に保つことです。皮脂や汗、角質を取り除くことで
    皮膚の衛生状態を保てます。
    また、清拭により血行が促進され、特に寝たきりの方にとっては、褥瘡(じょくそう)の
    予防にも役立ちます。
  • 効果
    清拭に期待される効果は、「身体の清潔を保持」、「血行促進」、「褥瘡予防」以外では、
    以下の通りです。
    ① 皮膚の状態を観察し、異常を早期発見する。
    ② 爽快感が得られる。
    ③ リラックス効果があり、ストレス軽減や安眠につながる。
    ④ 腸蠕動を促し、便通が改善する。
    ⑤ 身体の清潔を保持することで、外出や社会活動参加の意欲が高まる。
    ⑥ 介護対象者と介助者との間に、強い信頼関係を築くことも可能。

   清拭の種類

清拭には、全身に対して行う「全身清拭」と、部位ごとに行う「部分清拭」があります。

  1.  全身清拭
    一度に全身を清潔にできて効率的で、爽快感が得られやすいです。
    また、全身の皮膚の状態を確認できるため皮膚トラブルを見つけやすく、全身の血行が
    促され褥瘡の予防につながります。
    しかし、全身清拭は時間がかかり、介助者にも介護対象者にも体力が必要です。
    また、対象者の気分が乗らない場合は、精神的な抵抗が起きやすくなります。
  2.  部分清拭
    顔や手足のみ、胸と腹部のみ、陰部のみ、などと分けて行うため、短時間で行うことが
    できます。また、介護対象者への身体的・精神的負担が少ないこともメリットです。
    対象者の体調がすぐれないときや気持ちが乗っていないときは、部位ごとに日にちを分けて
    清拭を行いましょう。

清拭に必要なものは?

清拭に必要なものは、病院や介護施設の場合は、マニュアルがあればそれに従って準備してください。
家庭で行う場合に、清拭に必要なものは、例えば以下の通りです。
バスタオルや清拭用タオルは、多めに用意しておくと心強いです。

  • 洗面器、バケツ
  • お湯(50~55℃くらい)
  • バスタオル(身体の水分の拭き取りだけでなく、プライバシー保護・冷え対策にも使用。
    2~3枚)
  • 清拭用タオル(顔用・身体用・陰部用と使い分け。多めに用意)
  • 石けん(汚れが多い場合に使用)
  • 使い捨て手袋
  • 着替え一式
  • 保湿剤、爪切り(必要に応じて)

清拭の手順と方法を部分別に紹介

このセクションでは、清拭の手順と方法を部位別に紹介します。
タオルは、介助者の手のひらに収まる大きさに折りたたむと扱いやすいです。

新しい部位を拭くときには、きれいな面を表に出して拭くのがポイントです。
拭く順番は、「上半身から下半身へ」、「末端から中心へ」が基本となります。
具体的な流れは、「顔 → 手指・腕 → 胸部・腹部 → 脚・足指・足 → 背部 → 臀部・陰部」です。

   顔

顔の皮膚はデリケートなため、柔らかい生地のタオルが望ましいです。
目元は目頭から目尻に沿って優しく拭きます。目やにがある場合は無理にこすらず、
温タオルでふやかしてから拭き取ります。

続いて、鼻、口、額、頬と清拭していきます。鼻は上から下へと拭きます。
小鼻は皮脂などの汚れがたまりやすいため、注意が必要です。額は髪の生え際に向かって拭きます。

どの部位も、顔の中心から外側へ向かって拭くと覚えておくとよいでしょう。
頬が終わったら耳や顎、首を拭いていきます。耳は裏側や中も拭きましょう。

  手指・腕

腕の清拭は、心臓から遠い指先から拭いていきます。手首を支えながら指を1本ずつ拭きます。
そして、手首から肘に、肘からわきの下に向かって拭きましょう。
このとき、肩も忘れずに拭いてください。
手首から肘までは手首を支えながら拭き、肘から脇の下までは肘を支えて拭きます。
肘の内側は、円を描くように拭きます。

指の間やわきの下などは汚れやすいため、特に念入りに拭くことが重要です。
血行促進のために血流を意識しながら行うと効果的です。

   胸部・腹部

続いて、胸部と腹部を拭きます。
胸部は鎖骨に沿って内側から外側に向かって拭きます。
女性の場合、乳房は円を描くように拭きましょう。

腹部はおへそを中心に「の」の字を描くように優しく拭きます。
これにより大腸の蠕動運動を促すことができ、便通をよくする効果も期待できます。
わき腹は上から下に向かって縦に拭きます。

身体を冷やさないように、拭いている部分以外の場所はバスタオルなどで覆いましょう。
特に、女性では乳房の下、腰が曲がっている方は腹部に汚れがたまりやすいため、念入りに
拭いてください。

   脚・足指・足

そして、脚の清拭へと移ります。
膝から下は、膝を立てた状態で行うと拭きやすいです。
まず、足首から太もも、脚の付け根へ向かって拭きます。血行促進のため、血流を意識して
拭いてください。そして、くるぶし、かかと、足の裏、足指の順に拭いていきます。

足指の間や膝の裏は汚れがたまりやすい部位なので、特に念入りに拭いてしてください。
また、寝たきりの方はかかとに褥瘡ができやすいため、あわせてチェックします。

   背部

背部の清拭では、対象者の左右どちらかを下にして横向きの姿勢にします。
その際、姿勢が苦しくないか確認してください。
そして、腰から肩甲骨に向かって、大きな動きで少し力を入れて拭きましょう。
このとき、痛くないか力加減を確認しながら行います。

寝たきりの方は、背部に常に圧力がかかることで褥瘡ができやすいです。
清拭による血行促進により、その予防につながります。また、褥瘡の初期症状である
「発赤(ほっせき)」を見落とさないよう、よく観察しましょう。

   臀部・陰部

臀部は、片方ずつ、円を描きながら優しくなでるように拭きます。
褥瘡のリスクが高い部位なので、血行促進を意識し、皮膚の状態もチェックしてください。

最後に陰部を拭きます。デリケートな部位のため、可能ならば対象者自身で拭いてもらいましょう。
自力で拭けない場合は、介助者が拭きます。
男性の場合は、陰茎、陰嚢、肛門の順番で拭きます。
女性の場合は、恥骨から肛門へ向けて一方向に拭きます。
汚れがたまりやすい大陰唇や小陰唇は丁寧に拭きとりましょう。
汚れが多いときは、石けんや陰洗ボトルなどを使用し、陰部洗浄を行います。

臀部や陰部の清拭では、特にプライバシーへの配慮が必要です。
不要な露出は避けるなど、対象者の自尊心や羞恥心に最大限の配慮をしてください。

清拭を行う際の注意点

清拭は、介護や看護の現場では非常に重要な行為です。
しかし、清拭を行う際には、いくつかの注意点があります。対
象者の肌を露出させて触れる必要があるため、正しい方法を理解しておかなければ、対象者の
健康を害したり自尊心を傷つけたりすることにつながります。

ここでは、4つの注意点を紹介します。

   食前や食後を避ける

清拭は、基本的に食事の前後1時間を避けて実施しましょう。
その理由は、以下の通りです。

  1. 皮膚表面の血行が促進されると胃腸の動きが悪くなり、消化不良につながる。
  2. 食前食後は血糖値や血圧の変動が起こりやすい。
  3. 食後は消化吸収のために血液が胃腸に集中し、体力も必要なため疲れやすい。
  4. 全身清拭では、介助者だけでなく対象者にも体力が必要です。
    そのため、リハビリなどで体力が消耗している時間帯も避けるようにすると良いでしょう。

   プラバシーに十分配慮する

清拭は、身体の清潔を保ち爽快感を得てもらうケアです。
しかし、身体の露出を伴うことから、対象者は羞恥心を感じる場合があります。

そのため、プライバシーには十分配慮し、カーテンやドア、窓を閉めましょう。
そして、清拭に必要な部位だけを露出し、拭いていない部位はバスタオルなどを掛けるよう
配慮します。
また、対象者の緊張を解くために、楽しい会話を心掛けて、コミュニケーションを行うことも
重要です。

   水分をしっかりふき取り肌をこすりすぎない

濡れたタオルでの清拭後は、必ず乾いたタオルで水分をしっかり拭き取ってください。
皮膚表面に水分が残っていると、蒸発する際に熱が奪われるなどして体温が低下し、対象者が
寒気を感じるからです。

清拭をする際は、肌を強くこすらないことにも注意が必要です。
強くこすると、必要な皮脂まで落としてしまい、肌が乾燥しやすくなったり、対象者が痛みを
感じたりすることがあります。
また、高齢者や皮膚が弱い方の場合は、軽くこするだけで傷つけてしまう可能性もあります。
皮膚の状態や好みの強さを確認しながら、その人に合った強さで拭きましょう。

   身体を冷やさないように室温を確認する

清拭時の室温は、23~25℃程度が適温とされていますが、適温には個人差があります。
身体を拭きながら、対象者に寒くないか確認しましょう。

また、清拭には入浴のような保温効果はありません。
なるべく手早く作業を行い、清拭していない部分はバスタオルで覆うなどして保温します。
拭き終わったら、すぐに服を着せてください。

全身清拭に時間がかかる場合は、部分清拭に切り替えることで対処が可能です。
その場合、1日ごとに清拭する部位を変え、2~3日に分けて行うと良いでしょう。

まとめ

今回は、清拭について解説しました。

  • 清拭とは、入浴が難しい介護対象者の身体をタオルで拭くこと。
  • 主な目的は、身体の清潔を保持すること。
  • 効果は、「爽快感」、「血行促進」、「皮膚の異常の発見」など。
  • 全身に行う「全身清拭」と、部位ごとの「部分清拭」がある。
  • 必要なものは、洗面器、お湯、バスタオル、清拭用タオルなど。
  • 基本は、「上半身 → 下半身」、「末端 → 中心」。
  • 具体的な流れは、「顔 → 上肢 → 胸・腹 → 下肢 → 背部 → 臀部・陰部」。
  • 注意点は、「プライバシーに配慮」、「身体が冷えないよう注意」、「力加減に注意」など。

    清拭の目的や効果、手順、注意点をしっかり理解し、介護対象の方が受けてよかったと
    思えるようなケアを提供していきましょう。

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