人は高齢や病気になり寝たきりになった際に、食事、排泄、入浴などの介護と同じように、
近年重要視されているのが「口腔ケア」です。
しかし、食事や排泄などの介護に比べると、口腔ケアの手順や目的については、
まだまだ知らない方が多いのではないでしょうか。
もしも、家族が寝たきりになって口腔ケアを行う時に途方に暮れないように、
この記事では、寝たきりの方の口腔ケアの方法と、注意すべきポイントについても
詳しく解説していきます。
目次
そもそも口腔ケアとは、口の中を清潔に保ち、口が持っている機能を維持または向上させるための
ケアです。
歯磨きやうがいはもちろんのこと、入れ歯や口の中、舌の掃除、さらには口腔機能の訓練や
マッサージなども口腔ケアに含まれます。
(器質的口腔ケアと機能的口腔ケア)
まずは、口腔ケアを行うことで、どんな効果があるのかを解説します。
口腔ケアを適切に行うことで、次のような効果が期待できます。
冒頭にて、寝たきりの方に対する口腔ケアが重要視されていると紹介しましたが、
なぜ、寝たきりの方の口腔ケアが重要なのでしょうか。
それは、口腔内の清潔を保つ以外にも身体と精神にとっても嬉しい効果がたくさんあるからです。
ここからは、寝たきりの方の口腔ケアが重要な理由について、解説していきます。
口腔ケアを適切に行うことは、QOLの維持と向上に効果があります。
理由はいくつかあり、まず口腔機能が向上することで円滑なコミュニケーションができるようになり、他者との関わりが維持できるため、人間関係や信頼関係を構築する、自分の気持ちや考えを
伝えることができる、地域への参加や役割を感じやすくなるため、生活の質が維持、
向上を図ることができるためです。
特に口臭が強かったり、歯や入れ歯の汚れなどは自分も他人も気にしてしまい、表情が乏しく
なったり会話が減ってしまうことに繋がります。
口腔ケアを適切に行うことは、これらの問題を解決することに繋がるため、口の中だけのことと
考えずにしっかりと口腔ケアをすることが大切です。
口腔ケアとは、その名前の通り「口の中をケアする」ことを意味します。
口の中を清潔に保つことは、虫歯や歯周病などの口腔内の病気にかかるリスクを減らしてくれるのは
もちろん、口の中を刺激することで、唾液が分泌されやすくなり細菌の増殖などを抑制し風邪や
インフルエンザなどの予防にも繋がります。
また、口腔ケアを行うことで、口腔環境を改善することで、食事を噛んだり飲み込んだりする
能力の低下も防ぎ、誤嚥性肺炎や感染性心内膜炎などの全身疾患のリスクも減らしてくれます。
口腔ケアを行い、口の中を刺激することで脳へも刺激が送られます。
また、口腔ケアにより口腔機能が改善された結果、食事をよく噛んだりすることができ、噛むこと
による脳への刺激も増えることが期待されます。
これらの刺激が脳に送られると、脳の働きが活発になり、脳の発達に繋がります。
脳が活発に動くことで、脳のトレーニングになり認知機能の維持や低下を防ぐ効果が期待できます。
認知症を持っている方であれば、認知機能の低下が予防できるのは嬉しいことですね。
ここまで、口腔ケアとは何か、その重要性と口腔ケアにより得られる効果について解説をしました。
しかし、寝たきりの方はうがいなどをすることが難しくどうやって口腔ケアをすればよいか
わからない、という方も多いのではないでしょうか。
その疑問を解消するべく、ここからは寝たきりの方の口腔ケアの方法や手順を紹介していきます。
寝たきりの方の口腔ケアを行う前に、必要な物品を準備しておきましょう。
準備を忘れたりすると、時間や手間が増えてしまうほか、寝たきりの方から目を離してしまう時間が
できてしまい、思わぬ事故を招く危険も考えらます。
準備物はできるだけ事前にまとめて用意しておきましょう。
寝たきりの方の口腔ケアに必要な物品の一例は以下の通りです。
・やわらかめの歯ブラシ
・歯磨き粉
・デンタルフロス
・スポンジブラシ
・口腔ケア用のガーゼ
・コップ
・うがい受け(ガーグルベースン)
口腔ケアを行う場合は、今から口腔ケアをすることをきちんと伝え、動作毎にも声かけを
欠かさないようにしましょう。
寝たきりの方や認知機能の低下がある場合、「今から何をするのだろう」とわからない場合も多く、
声かけなしで物を口元に運ばれると、「怖い、痛いことをするかも」と拒否反応を示す方も
おられるかもしれません。
何をするのか、どういう動作に移るのか声かけをしましょう。
寝たきりの方の口腔ケアを行うための体位には、以下のような体位があります。
※起こすことで体に負担がかかる方の場合は、上げすぎないように10度〜15度くらい
起こすことから始めていくのが望ましいです。
口腔ケアを行う準備が整ったら、口腔内を観察しましょう。
しっかりと観察をしなければ「痛みが生じたり」「汚れが残ったり」「異常に気づくのが遅れる」など、
デメリットが生じます。
観察する点としては「どのくらい口を開くことができるか」「歯、歯茎、舌、粘膜」などです。
これは、無理な介助にならないようにするためと「虫歯やグラついている歯がないか」
「神経が過敏な歯がないか」「口腔内に傷や腫れなどがないか」「舌苔はあるか」
などを観察するためです。虫歯、痛み、腫れなどがある場合は、歯科受信し医師に相談しましょう。
観察し、異常がなく本人も口腔ケアを行うことを伝えたら、口腔内を湿らせます。
うがいをできる方であれば、うがいを行えますが、うがいが難しい方の場合は水を含ませた
ガーゼや口腔ケア用のウエットティッシュを使用し、口腔内を湿らせましょう。
口腔内を湿らせすことで、口腔内の汚れなどを落としやすくする、大きな汚れや食べかすを
排除する目的があります。
口腔内の観察し湿らすことができたら、ブラッシングをして汚れを除去していきます。
本人がブラッシングをできる場合は、自分でできる範囲は自分でしてもらい、介護者は
仕上げ磨きをします。
ブラッシングを行う歯ブラシは、毛がやわらかくヘッドの小さいものがおすすめです。
歯磨き粉も刺激の少ないものを少量にし、力を入れて磨くというよりは、小刻みに動かすことを
意識してブラッシングしましょう。
介護者がブラッシングを行う場合は、本人と向き合い正面から歯磨きを手伝います。
また、唾液が溜まらないようにこまめに吐き出してもらい、口元の水分を拭き取るようにしましょう。
身体を起こすことが難しい場合は、歯ブラシではなくスポンジブラシや口腔ケア用ガーゼを
使用しましょう。
スポンジブラシは、水を含ませてから絞り、歯の表面・裏側、歯茎、舌を優しく拭うように
清掃しましょう。
口腔ケア用ガーゼを使用する場合は、人差し指に巻いてガーゼの端を握って使います。
このとき、やみくもに口腔内を清掃するのではなく、奥歯から手前に向かって口腔ケアを
していきます。
スポンジブラシや口腔ケア用ガーゼは使用後は廃棄し、毎回新しいものを使用しましょう。
舌の表面が白くなっている場合、舌苔が溜まっている可能性があります。
舌苔は食べかすや剥がれた粘膜などからできており、
細菌の温床、口臭、歯周病、味覚障害の原因になります。
舌の表面はデリケートなので、歯ブラシではなくスポンジブラシや舌用ブラシを使って清掃をします。
舌の奥から手前に向けて、やさしく撫でるように舌苔を除去しましょう。
ブラッシングと舌や粘膜の清掃が終われば、口腔内の洗浄を行います。
うがいをできる方は水を使ってうがいをしますが、身体を起こせない、うがいができない、
普段から水分にトロミ剤を使用している方などは、うがいではなく、口腔ケア用の
ウエットティッシュを使って口腔内を拭き取り洗浄をしましょう。
寝たきりの方は、身体を起こすことができなかったり、認知機能の低下がある、嚥下の能力が
低下しているなど、通常の口腔ケアよりも注意すべきポイントが多いです。
本人のためにと思ってしたことが、かえってトラブルや誤嚥などの危険を招く可能性もあるため、
ここから紹介する、寝たきりの方の口腔ケアで注意すべきポイントについてしっかりと把握して
おきましょう。
寝たきりの方の口腔ケアで注意すべきポイント1つ目は「誤嚥に注意する」です。
座位を保てない方や上体を起こすことが難しい方は、ベッドで横向きになって口腔ケアを行い
ましょう。
仰向けや顎が上がった上体は、水分が喉に直接流れこみやすく誤嚥しやすい、吐き出そうとしても
吐き出せない状況になります。
誤嚥や窒息の危険があるため、注意しましょう。
また、普段から水分を飲む際にトロミ剤を利用している方は、飲み込む力が常に弱くなっている方と
考えられます。
こちらも、うがいや洗浄の際に水分で誤嚥する危険があるため、注意しましょう。
そういった方には、うがいでの洗浄ではなく口腔ケア用のウエットティッシュなどで、
口腔ケアをする方が、安全に介助ができるためおすすめです。
寝たきりの方の口腔ケアで注意すべきポイント2つ目は「乾燥を防ぐ」です。
口腔乾燥が日常的に起きていると「虫歯や歯周病などのリスク増加」「自浄作用の低下による
細菌増加」「乾燥による飲み込みづらさからくる嚥下機能の低下」など、様々なリスクが高まります。
口腔ケアを行った後は、「口腔保湿剤(ジェル・スプレー)」口唇の乾燥は「リップやワセリン」を
使用し、保湿をするようにしましょう。
また、日頃から口周りのマッサージや嚥下機能を維持・向上する体操などを行うことで、唾液の
分泌を促進させ乾燥を防ぐことができます。
寝たきりの方の口腔ケアで注意すべきポイント3つ目は「必要異常に手を貸さないようにする」です。
これは、「介護しすぎによる、さらなる心身機能の低下」を防ぐためです。
寝たきりでできることが少なくなってきても、たとえば何かをもつ口を動かすなど、少しでも
その方ができるのであれば、できるだけ、その人の力でしてもうようにしましょう。
「自分でできることは、自分でする」ことは、些細なことであっても今ある力を維持することに
繋がる大切なことで、口腔ケア以外のケアについても、この基本は大切なので理解しておきましょう。
この記事では、口腔ケアとは何かという基本から、口腔ケアが重要視されている理由、
口腔ケアのメリットや口腔ケアの手順と方法について解説しました。
寝たきりの方の口腔ケアは、口腔内の清潔を保つ効果以外にも、虫歯、歯周病、口臭などの
トラブルを予防したり表情筋の維持に繋がりコミュニケーションを円滑にする効果、
最近の増殖やウイルスが身体に侵入するのを防ぎ、全身疾患にかかるリスクを下げる効果も
期待できます。
寝たきりの方の口腔ケアを行う際、うがいやブラッシングができない方の場合は、口腔ケア用の
ガーゼや口腔ケア用のウエットティッシュを使用し、水を誤嚥しないように配慮して介助しましょう。
また、寝たきりの方でも自分でできる範囲のことは自分でしてもらうようにし、今ある機能の
さらなる低下が起きないよう注意し、寝たきりであっても、適切な口腔ケアを行い、清潔にそして
健康に過ごしていきましょう。