介護施設が人手不足になる背景・原因とは?5つの対処法も詳しく解説

2025.01.15

介護施設では人手不足が深刻です。
6割超の施設で職員が不足しているというデータがあります。
それにより、「職員の過重労働」、「利用者の受け入れ抑制」、「介護の質の低下」といった
影響が考えられます。

この記事では、介護業界の人手不足の背景や原因、その解決策について、詳しく解説します。
「求人を出しても応募が来ない」、「採用しても定着しない」など、人手不足で悩んでいる方に
おすすめの内容です。

介護業界が人手不足に陥る背景

介護業界が人手不足に陥る社会的背景として挙げられるのが、「少子高齢化」です。
介護を必要とする高齢者は増える一方なのに、労働人口は年々減少しています。
以下、高齢化と少子化について、データを用いながら詳しく解説します。

 高齢化

内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によると、2023年10月1日現在の日本の総人口は、
1億2,435万人で、65歳以上は、3,623万人です。
高齢化率は「29.1%」となり、この数値は毎年少しずつ高くなっています。

今後も、高齢者の比率は増加していくと見込まれ、2030年には30.8%、2040年には34.8%となること
が予想されています。

なお、2020年のデータで比較すると、日本の高齢化率は世界第一位です。
ちなみに、2023年の75歳以上の比率は16.1%で、2030年には18.8%、2040年には19.7%という
予想です。

 少子化

日本では、女性の社会進出やライフスタイルの変化などが原因で、出生数は減少し続け少子化が
進行しています。
2000年に119万人だった出生数は、2022年には77万人にまで大幅に減少しました。
また、合計特殊出生率は1.26と過去最低となっています。

生産年齢人口(15~64歳)も、2000年の8,622万人から2022年には7,395万人にまで減少しました。
今後も減少する見込みで、2030年には6,875万人、2040年には5,978万人になると推定されています。

以上のデータから、介護を必要とする高齢者が増え続けているのに対して、介護を担う働き手が
減り続けていることが分かります。これが、介護業界における人手不足の背景です。

介護施設が人出不足になる原因

介護業界が人手不足になる社会的な背景には、少子高齢化が関係していることは理解して
いただけたと思います。
介護の現場では、「求人を出しても人が集まらない」、「採用してもすぐに辞めてしまう」などの
問題も多いです。
ここでは、介護施設が人手不足になる原因について解説します。

 介護業界へのネガティブなイメージ

介護業界に対して多くの人が抱くネガティブなイメージは、若手や未経験の人材がこの業界に
一歩踏み出すのに高いハードルとなっています。
介護業界に対して、「キツい・汚い・危険」のいわゆる「3K」のイメージを持っている人は、
昔から多いです。

しかし、現場で働く介護職員の多くは、やりがいを持って仕事をしています。
また、離職理由として最も多いのが、「職場の人間関係」というデータがあります。
3Kを理由として辞める人は、多くないのが実情です。

このように、実際の介護の現場を知らないことが原因で、一般的なイメージと離職理由との間に
乖離があると考えられます。
SNSなどを上手に活用して情報を積極的に発信し、介護に対するイメージを変えていくことで、
人手不足解消につながる可能性があります。

 仕事に対しての賃金が低さ

厚生労働省の2022年の調査によると、常勤の介護職員全体の平均給与は、「31万7,540円」と
なっています。
これに12を掛けたものを平均年収とすると、「381万円」となります。

これと同様に計算した、保有資格別の平均年収は、以下の通りです。
難易度が高いとされる資格を取得するほど、給与は高くなる傾向があります。

  • 保有資格なし 322万円
  • 介護職員初任者研修 360万円
  • 介護福祉士実務者研修 363万円
  • 介護福祉士 397万円
  • 社会福祉士 420万円
  • ケアマネジャー 452万円ちなみに、国税庁の2022年の調査によると、すべての業種での平均年収は「458万円」
    となっています。
    すなわち、介護職の給与は平均を下回っているといえます。
    そのような理由もあって、他の業種への転職を考える人が多いと考えられます。
    しかし、政府は介護業界の賃金の低さと人手不足を問題視しており、近年は賃金の上昇が
    続いています。

 人間関係などによる離職率の高さ

介護業界では、離職率の高さが、人手不足の大きな原因との指摘も多いです。
公益財団法人介護労働安定センターの「令和5年度介護労働実態調査」によると、離職理由の
トップは、「職場の人間関係に問題があったため」で、この理由により辞めた人の割合は
年々増加しています。

介護の現場では、要介護者やその家族、医療スタッフなど、さまざまな人と関わるため、
人間関係での悩みやストレスが多くなりがちです。
具体的な内容としては、「上司の言動に問題があった」、「上司の管理能力が低い」、
「同僚の言動がストレスだった」、「上司や同僚と意思疎通がうまくできなかった」などです。

コミュニケーションをこまめにとり、職員同士が相談しやすい環境を作ることが施設には
求められます。

 仕事の大きさに対しての社会的評価の低さ

社会的な需要が高く価値のある仕事にもかかわらず、介護職は社会からの評価が低いのも、
人手不足の原因です。
「令和5年度介護労働実態調査」の「労働条件・仕事の負担に係る悩み・不安・不満等」の調査
では、「業務に対する社会的評価が低い」が20.4%となっています。

この結果は、前述の通り、いまだに「介護業界 = 3K」のイメージを抱く人が多いため
考えられます。介護の仕事には、食事や入浴、排泄などの介助も含まれるため、ネガティブな
イメージが先行しがちです。

しかし、職場改善や業務の効率化などに取り組んだり、積極的に情報発信をしたりする施設も
増えてきています。また、身近に介護が必要な方が増えてきたことや、学校教育やメディアでの
取り扱いが増えていることなどで、近年は介護職の社会的評価は見直されつつあります。

 介護業務の身体への負担の大きさ

介護業務の身体的負担が大きいことも、人手不足になる原因です。
要介護者を抱えたり、車椅子に移乗させたりと、力仕事が必要な場面も多く、体力的に限界を
感じて離職するケースも少なくありません。

また、介護施設では24時間体制で利用者のケアを行うところもあります。
シフト制の勤務や夜勤、休日勤務など、人によっては不規則な勤務形態が負担に感じる
かもしれません。
生活リズムが乱れて体調を崩したり、資格の勉強などプライベートとの両立が難しくなったり
することも考えられます。
このような過酷な労働環境が原因で、人手不足が慢性化しています。

介護施設の人出不足を解決するめの5つの対処法

介護施設での人手不足の背景や原因について、解説してきました。
このセクションでは、人手不足を解決するためにはどうしたらいいのか、具体的な対処法を
5つ紹介します。

 1.ITやシステムを導入することで業務改善を図る

介護職員が直面する課題のひとつは、日報や介護記録などの文書作成に多くの時間が
割かれてしまうことです。
しかし、ITシステムを導入することで、大幅な時間短縮・工数削減につながります。

具体的には、利用者の健康チェックやシフト管理、給与計算などの業務にITツールを導入したり、
タブレットなどを利用したりすることが有効です。
職場のIT化を推進することで、作業的な業務の負担が軽減し、その分利用者への対応時間を
増やすことができ、利用者の満足度の向上も期待できます。

 2.介護職や介護業界のイメージアップを図る

前述の通り、介護職や介護業界には、一般的にネガティブなイメージがあります。
しかし、実際には、介護職でしか得られないやりがいや学び、経験なども多いです。
イメージと現実の乖離を埋めるためには介護職の仕事内容について、積極的な情報発信が必要です。

ホームページで理念や取り組みを公表したり、SNSなどで施設や介護業界の魅力を発信したり
しましょう。それにより、ポジティブなイメージが伝わって、人手不足解消につながる
かもしれません。

 3.短時間勤務や兼業など多様な働き方の受け入れ体制づくり

近年は、ワークライフバランスを重視した働き方を望む人が多いです。
人材の定着を図るためにも、職員一人ひとりの多様性を尊重したうえで、受け入れ体制を
整備しましょう。
例えば、以下のような取り組みが挙げられます。

  • 有給休暇の取得促進
  • 残業の削減
  • 短時間勤務やフレックス制度など、柔軟な勤務体系の導入
  • 育児・介護休暇などの取得促進
  • 兼業や副業を認める
    こうした多様な働き方を導入することで、働きやすさが向上し、介護業界に踏み出すのを
    ためらっていた人もチャレンジしやすくなるでしょう。

 4.外国人介護人材の積極的な受け入れを行う

人手不足解消のために、外国人を雇用する方法もあります。
そのメリットは、以下の通りです。

  1. 若い人材を確保しやすい
    介護の現場では体力が必要な場面が多いため、若い人材を確保できるのは大きなメリットです。
  2. 意欲のある人材を採用できる
    「母国の家族を支えたい」、「日本で高い介護スキルを身に付けたい」など、明確な理由を
    持って来日している人が多いです。
  3. 異文化交流ができる
    施設の職員や利用者が、外国の文化や生活習慣などを学ぶことができ、多様性への理解が
    深まることが期待できます。
  4. 地方でも採用しやすい
    外国人は、地方の職場でも採用しやすい場合が多いです。
    日本人では、地方は敬遠されることが多いのですが、外国人の場合は、立地よりも給与や
    社宅・寮の有無などが優先されることがあります。
  5. 雇用に際して助成金などの支援がある
    外国人を雇用することで、国からの助成金や地方自治体からの補助金の制度を利用できる
    ことがあります。

 5.資格取得支援制度を強化する

資格取得支援制度の導入や強化も有効です。
これにより、応募者に対して、働きながらでも資格取得が可能なことをアピールできます。
また、資格の取得は昇給・昇格につながりやすく、職員のモチベーション向上をもたらします。

資格取得支援制度は、費用面でのサポートと環境面でのサポートに分けられます。
費用面でのサポートは、主に資格取得にかかる費用を施設側が補助するものです。
全額でなくても、一定の割合でも施設が負担してくれれば、職員にとってはかなり助かります。
環境面でのサポートは、例えば、講義日程に合わせてシフトを調整するなど、資格を取得しやすい
環境を整備することです。

まとめ

今回は、介護施設の人手不足について解説しました。

  • 社会的背景には、少子高齢化の問題がある。
  • 原因は、「業界へのネガティブイメージ」、「低賃金」、「人間関係による離職の多さ」、
    「社会的評価の低さ」、「身体的負担の大きさ」など。
  • 解決策は、「ITシステム導入」、「情報発信」、「働き方の多様化」、
    「外国人の受け入れ」、「資格取得支援」など。この記事が、人手不足解消のための一助になれば幸いです。

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