著しく高齢化が進む日本では、介護が必要な方が年々増加しています。
家族だけで介護を担うことが難しくなり、社会全体で高齢者を支える仕組みが必要になった
ことから、2004年4月に介護保険制度が始まりました。
この制度は、介護保険料を支払うことで、介護が必要になった際に、様々なサービスを低価格で
受けられるというものです。
今回この記事では、介護保険制度が作られた背景や、改正によりどのようなことが変わって
いったのかをご紹介していきたいと思います。
介護保険とは
日本は世界でも類を見ないほど、高齢化が進んでおり、介護が必要な方は年々着実に増え続けて
います。そんな介護の必要な高齢者を支えるために2004年4月にスタートしたのが、
介護保険制度です。
ここからは、その作られるに至った背景と制度の内容について詳しく説明していきたいと
思います。
介護保険制度が作られた背景
介護保険制度が作られた背景には、著しい高齢化社会だけでなく、その他にも要因があります。
それが世帯の変化と、介護離職です。
近年では、上京しそのまま世帯を持つケースが少なくありません。結果として、高齢者のみの
世帯が増加しているのです。さらに、少子化により働き手不足が、取り沙汰されている中で、
家族の介護のために離職を余儀なくされるケースも増えてきてしまったのです。
さらに、従来の制度では、介護の負担はその家族に集中しており、経済的にも精神的にも
大きな負担がありました。
そこでこれらを解決するため、社会全体で介護を支える仕組みとして、介護保険制度が導入される
運びとなったのです。
介護保険制度は2000年4月にスタート
家族主体であった高齢者介護を社会全体で高齢者を支える仕組みとして2000年4月に
スタートした介護保険は、画期的な制度で国民の大きな関心を集めました。
2000年4月に提供されていた介護サービスは以下のものです。
- 訪問介護
- 訪問入浴介護
- 訪問看護
- 通所介護(デイサービス)
- 通所リハビリテーション
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
- 福祉用具貸与
- 居宅介護支援
始まったばかりのころは、サービスの種類や内容も限られていましたが、
高齢者が住み慣れた地域で生活が継続できるように、社会全体で支えるという理念は、
今でも受け継がれています。
介護保険法の改正の流れとポイント
介護保険制度は、社会情勢や介護ニーズの変化に対応するために、2003年は料金のみの変更でしたが、基本的には3年毎に介護保険法の改正が行われます。
ここでは、2006年度から介護保険法が改正された内容についてみていきたいと思います。
2006年度改正
2006年度の介護保険法の改正では、高齢化の進行と介護ニーズの多様化に対応するために、
次の三つを柱として行われました。
- 予防重視
- 地域密着
- 利用者本位
主な改正は、次の内容です。
- 介護予防サービスの導入
高齢者が要介護状態になることを予防し、健康寿命を目的とした介護予防のための
サービスの導入
- 要支援者に対するサービスの拡充
要支援1・2の認定を受けた方が利用できるサービスが拡充
- 地域支援事業の創設
地域のニーズを踏まえたきめ細やかなサービスを提供することを目的とした、生活支援や
介護予防のための事業の実施
この改正により、住み慣れた地域で、より長く自立した生活の継続するための支援体制が
強化されました。また、介護予防の重要性が強調され、要介護状態にならないための
取り組みが本格化された改正でした。
2009年度改正
2009年度の介護保険法の改正では、2006年度の改正の際の「予防重視」の理念を継承しつつ、
次の点を重点的に行いました。
- 認知症高齢者への支援強化
- 地域密着型サービスの拡充
介護サービス事業者の質の向上
主な改正は、次の内容です。
- 認知症高齢者への支援強化
認知症高齢者が住み慣れた地域で生活を続けられるように次の施策を導入
・認知症デイサービスの創設
・小規模多機能型居宅介護の創設
・グループホームの定員緩和
- 地域密着型サービスの拡充
地域住民のニーズに合わせたきめ細やかなサービス提供を促進するために、次の内容の改正
・地域密着型サービスの対象地域拡大
・夜間対応型訪問介護の創設
・定期巡回・随時対応型訪問介護看護の創設
- 介護サービス事業者の質の向上
利用者が安心してサービスが利用できるように、事業者に対して次の規制が強化
・業務管理体制の強化
・指定・更新の審査厳格化
この改正により、認知症高齢者への支援体制が強化され、地域の実情に応じた多様な
サービス提供が可能となったのです。また、介護サービスの質の向上により、利用者と
家族が安心して利用できる環境づくりを目指しました。
2012年度改正
2012年度の改正は、2008年のリーマンショックを皮切りに起きた経済状況の悪化と、
着実に進展している高齢化を背景に行われました。改正の主な目的は次のような点です。
- 制度の財政基盤の安定化
- 利用者負担の公平化
- サービスの効率化
これらの目的を達成するために次のような内容の改正が行われました。
- 保険料負担の公平化
高額所得者の保険料負担を引き上げ、後期高齢者医療制度との保険料との一体化
- 利用者負担の適正化
高額所得者のサービス利用時の自己負担割合を引き上げ、2割負担を拡大
- サービスの効率化
介護予防の訪問介護・通所介護を介護予防・日常生活支援総合事業へと移行し、
ケアプランの簡素化
- その他
・介護職員の待遇改善のための加算を新設(処遇改善加算)
・虐待防止のための体制強化
これらの改正により、介護保険制度の財政基盤の安定化、利用者負担の公平化が
図られたのです。また、サービスの効率化を図ることで、より多くの人が介護サービスを
利用できるようにすることが目指されました。
2015年度改正
2015年度の改正は、地域包括ケアシステム構築に向けて、次の3つを柱として行われたのです。
- 地域包括ケアシステムの構築
- 介護サービスの利用者負担の軽減
- 予防給付の見直し
具体的な内容は次のようになっています。
- 地域包括ケアシステムの構築
高齢者が住み慣れた地域で、自分らしく自立した生活を続けられるように、地域包括
ケアシステムの構築の推進
- 介護サービスの利用者負担の軽減
低所得者の自己負担割合を軽減するため、一定以下の所得の方を対象に、自己負担割合を
1割または2割に軽減
- 予防給付の見直し
介護予防訪問介護・介護予防通所介護を、市町村が運営する「介護予防・
日常生活支援総合事業」へと移行し、さらに利用者の状態に応じて、必要なサービスを
選択可能に
これらの改正により、高齢者が住み慣れた地域で、安心して生活を継続できるように
地域全体で支える仕組み作りが推進されました。
また、利用者負担の軽減や予防給付の見直しにより、多くの人がサービスを利用しやすい
仕組みとなったのです。
2018年度改正
2018年度の改正の目的は、主に次の3つです。
- 介護人材の確保と定着
- 認知症施策の推進
- 地域包括ケアシステムの推進
これらの目的を達成するために次のような内容の改正が行われました。
- 介護人材の確保と定着
・介護職員の処遇改善
・経験・技能のある介護職員の賃金アップ
・介護職員のキャリアアップ支援
・働きがいのある職場環境づくり
・介護ロボットやICTの活用による業務効率化
・外国人介護人材の受け入れ
- 認知症施策の推進
・認知症サポーターの養成
・認知症カフェの設置促進
・認知症高齢者グループホームの整備
- 地域包括ケアシステムの推進
・地域包括支援センターの機能強化
・在宅医療・介護連携の推進
・サービス付き高齢者向け住宅の普及促進
- その他
・介護サービス情報の公表制度の強化
・介護事業者への指導監督の強化
これらの改正により、介護人材の確保と定着、認知症施策の推進、地域包括ケアシステムの
推進などが図られることとなりました。
また、介護サービスの質の向上を図ることで、利用者と家族が安心してサービスを利用できる
環境づくりを目指すこととなりました。
2021年度改正
2021年度の改正の目的は、主に次の3つです。
- 介護予防・日常生活支援総合事業の推進
- ICTを活用した介護サービスの推進
- 介護人材の確保と定着
これらの目的を達成するために次のような内容の改正が行われました。
- 介護予防・日常生活支援総合事業の推進
・市町村による高齢者の包括的な支援体制の構築
・予防サービスの充実
・地域住民の参加促進
- ICTを活用した介護サービスの推進
・オンラインによる相談・アセスメントの導入
・遠隔リハビリテーションの導入
・介護記録の電子化
・データヘルス改革の推進
- 介護人材の確保と定着
・介護職員の処遇改善
・働きがいのある職場環境づくり
・外国人介護人材の受け入れ
- その他
・介護サービス情報の公表制度の強化
・介護事業者への指導監督の強化
これらの改正により、介護予防・日常生活支援総合事業の推進、ICTを活用した介護サービスの
推進、介護人材の確保と定着などが図られました。
また、介護サービスの質の向上を図ることで、利用者と家族が安心してサービスを利用できる
環境づくりを目指しました。
2024年介護保険法の改正ポイントは?
これまで、介護保険制度の変遷をたどってきました。そして、前回の改正からちょうど3年経つ
今年度も、改正が行われているのです。今回の改正でも、今までの改正と同様に、高齢化の
さらなる進展や社会情勢の変化に対応するための内容が盛り込まれています。
これから、その内容について説明していきたいと思います。
1.地域包括ケアシステムの深化・推進
高齢者が高齢者が住み慣れた地域で、自分らしく暮らし続けられるよう、地域包括ケアシステムの
深化・推進することが、改正のポイントの一つ目です。
今回の改正では、このシステムをさらに強化するために、次の4つの柱を軸に取り組むことと
なりました。
- 介護予防支援の強化
介護予防支援費の見直しを行い、より効果的な予防サービスの提供
- 高齢者の安全確保
高齢者の安全を守るために、感染症や災害への対応力の向上を図る
- 地域共生社会の実現
様々な人が地域で高齢者を支えるため、地域住民の参加促進や、多様な主体による
連携強化を図る
- ICTの活用
ICTを使うことで地域包括ケアシステムをより効率的に運営するための取り組みを
推進
2.自立支援・重度化防止に向けた対応
要介護状態の重度化を予防し、可能な限り自立した生活を送れる取り組みを推進することが、
改正のポイントの2つ目です。そのために次の取り組みが強化されることとなりました。
- リハビリテーションの強化
○リハビリテーション専門職の配置基準の見直し
提供頻度によって配置義務のあったリハビリテーション専門職を、すべての事業所に
配置することが義務化される
○リハビリテーションの提供時間の確保
リハビリテーション提供時間の確保のため、夜間・休日の提供体制を整備
- 生活機能向上のためのサービス提供体制の強化
○栄養改善や口腔ケアの充実
栄養改善や口腔ケアに関するサービスの充実
○運動機会の提供
高齢者が運動する機会を増やすための取り組みを強化
- テクノロジーの活用
○ICTや介護ロボットの活用
ICTや介護ロボットを活用することで、高齢者の自立支援や重度化防止を効果的に進める
3.良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり
良質な介護サービスの効率的な提供を継続的に行っていくために、人材確保を推進していくのが
3つ目のポイントです。働きやすい職場づくりのため、次のような内容に取り組むこととなりました。
- 介護報酬の引き上げ
介護職員の処遇改善を目的として、介護報酬の引き上げ
- 業務負担の軽減
介護職員の業務負担を軽減するための取り組みを強化
- キャリアアップ支援
介護職員のキャリアアップを支援するための取り組みを充実
これらの取り組みを通じて、介護職員がより働きやすい環境を整備することで、
人材の確保と定着を図り、良質な介護サービスの提供体制を維持・強化していくことを
目指していくこととなったのです。
4.制度の安定性・持続可能性の確保
高齢化が急速に進む中で、介護保険制度を将来にわたって安定的に維持していくためには、
制度の財政基盤を強化し、効率的な運営を図ることが重要です。
そのため、今回の改正では、制度の安定性・持続可能性の確保に向けた取り組みが行われることと
なったのです。その内容は次のようなものです。
- 保険料負担の適正化
現役世代の負担を軽減するため、75歳以上の後期高齢者の保険料負担の見直しなどを検討
- 給付の効率化
ケアプランの作成の効率化や、サービスの適正化などを推進
- 介護サービスの適正化
サービスの利用状況のモニタリングや、効果的なサービス提供方法の検討
- その他
介護保険制度に関する広報活動の強化や、国民への理解促進
まとめ
この記事では、介護保険制度の創設の背景やその内容について説明してきました。
超高齢化社会が進んでいる日本にあって、2000年にスタートした介護保険制度は、非常に重要な
社会保障制度です。
スタートしてから3年ごとに、その時々の情勢などを踏まえ、改正が行われています。
2024年度の改正では、介護予防や人材確保などの施策が強化されました。
今後も、高齢者が安心して暮らせるように、制度の充実が期待されます。