介護現場での身体拘束とは?具体例や弊害を詳しく紹介

2025.01.23

介護施設では、認知症や疾病、障害を持った高齢者が利用する施設です。
福祉施設は超高齢化社会の影響も受けて慢性的な人手不足となっています。

そんな中、一人ひとりにかけられる時間が少なくなったり、スタッフの教育をする時間や
十分な見守りができないために起きかねないのが、身体拘束です。
介護施設での身体拘束は禁止されており、刑法上の犯罪になり得ないものです。
この記事は、どんなことが身体拘束にあたるかわからない、知らず知らずに身体拘束を
してしまっていないか不安という方に向けて、身体拘束の具体体や弊害を詳しく紹介していきます。

身体拘束とは

身体拘束とは、介護施設や病院などで、認知症や障害を持つ高齢者に「介護や治療の邪魔になる」
「事故に至る危険がある」などを理由に、タオルや抑制帯、ミトンやつなぎ服などの道具で
ベッドやイスに縛ったり、部屋から出られないように閉じ込めるなど、利用者の自由を奪ってしまう
行為のことを言います。

 身体拘束の具体例

身体拘束は、高齢者の自由を奪い、徘徊や迷惑行為などを防止したり、事故を防止したりする
行為をいいます。
身体拘束の具体例には以下のようなものがあります。
知らず知らずに身体拘束をしてしまっていないか確認しましょう。

  1. ヒモ、タオル、抑制帯などを利用し身体を縛り付ける。
  2. 室内に閉じ込める。
  3. 向精神薬などを飲まし動けなくしてしまう。
  4. Y字型拘束帯、腰ベルトなどを利用し起きたり、立ち上がれないようにする。
  5. 柵を用意し行動範囲を極端に制限する。

 身体拘束は原則禁止

身体拘束は、人権を擁護したり、生活の質が低下してしまうのを防ぐために原則禁止されています。
また、介護施設に対する社会的な不信感を防ぐためという理由もあります。
身体拘束は「介護保険法」という法律に基づいた基準で「身体拘束は、利用者
(その他入所者)の行動を制限する行為」にあたるため、
「生命または身体を保護するため、緊急やむを得ない場合を除き行ってはならない」と明確に
禁止されている行為です。

後に解説する「身体拘束を行うにあたっての三原則」に該当しない場合は
「身体拘束は行ってはならない」とされています。

病院や介護施設での身体拘束に伴う3つの弊害

病院や介護施設では、身体拘束を行うことで後に利用者にとって大きな弊害が残る場合があります。
その弊害には「身体的弊害」「精神的弊害」「社会的弊害」の3つに分類されることが多いです。
弊害が起きることで利用者にとってどんな不利益が生じるのでしょうか。

 身体的弊害

身体拘束による弊害1つ目は「身体的弊害」です。
身体的弊害には以下のようなものがあります。

  1. 利用者の関節や拘縮、筋力の低下といった「身体機能の低下」や高速による圧迫部位の
    褥瘡の発生などが外的弊害をもたらします。
  2. 食欲の低下、心肺機能や感染症への抵抗力の低下などの内的弊害をもたらします。
  3. 車イスに拘束しているケースでは、無理に立ち上がろうとし「転倒事故」、
    ベッド柵で囲むなどのケースでは柵を乗り越え「転落事故」、
    さらには拘束に使用したベルトやヒモなどによって「窒息」するなどの大事故に至る
    弊害が生じる。

 精神的弊害

身体拘束による弊害2つ目は「精神的弊害」です。
精神的弊害には以下のようなものがあります。

  1. 身体拘束により本人に「怒り」「不安」「屈辱」「あきらめ」などの「大きな精神的苦痛」
    をもたらし、人間としての尊厳を侵してしまう。
  2. 身体拘束によって、認知症を進行させてしまうおそれや、せん妄の頻度が増やしてしまう
    おそれが生じる。
  3. 家族に対しても「後悔」「混乱」「罪悪感」などの大きな精神的苦痛を与えてします。
  4. 介護スタッフ、看護スタッフが自分たちのケアに対して誇りを失い、安易な拘束が
    士気の低下を招いてしまう。

 社会的弊害

ここまで紹介した弊害は、社会的にも大きな問題を含んでいます。
介護・看護のスタッフの士気が下がるばかりか、身体拘束を行う施設に対しての
「社会的不信感」「偏見の目」を引き起こすおそれがあります。
そして、身体拘束により身体機能が低下した利用者は生活の質(QOL)を低下させるばかりか、
さらなる「医療的な処置が必要」になり、悪循環を引き起こす上に、経済的な負担の増加などに
影響を及ぼす危険すらもはらんでいます。

身体拘束が認められる要件(全て満たすことが必要)

身体拘束は「利用者または他の入所者等の生命または身体を保護するため、緊急を
やむを得ない場合を除き、身体拘束その他入所者の行動を制限してはならない」、
と定められています。

この「緊急をやむを得ない場合」についても、スタッフだけの判断で行ってしまわないように
「三原則」が定められています。
この三原則の「全てを満たさなければ、身体拘束を行うことは認められない」ため、
スタッフはこの原則をしっかりと把握しておかなければなりません。

 切迫性

身体拘束の三原則1つ目は「切迫性」です。
切迫性とは、利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる
可能性が著しく高い状況を指します。
すぐに対処に映らなければすぐにても、利用者または他の利用者等に危険が及んでしまう。
という状況に限ります。
この、切迫性の原則がなければ安易な身体拘束が拡がり「何かあれば拘束」という状況が
出来上がってしまう恐れがあります。
反対に、身体拘束への原則に対する理解が足らず、拘束してはいけないという大雑把な
考えもまた、利用者やその他の利用者に危険が及ぶことになるため、
切迫した状況にあるのかどうかを見極める力が介護・看護スタッフには常に求められます。

 非代替性

身体拘束の三原則2つ目は「非代替性」です。
非代替性とは、身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないことを指します。
「身体拘束や行動制限以外にかわる方法がない場合」のみこの非代替性の条件を
満たされていることを指します。
つまり、介護・看護スタッフが介護方法の知識に乏しい、認知症や障害への理解が乏しい場合は、
安易な身体拘束を招くことになります。
このため、介護・看護スタッフには「多角的な目線」と「多様な介護方法の立案と実施」が
常に求められ、この技術と知識の向上こそが「身体拘束や行動制限を防ぐ」ことに繋がるのです。

 一時性

身体拘束の三原則3つ目は「一時性」です。
一時性とは、身体拘束やその他の行動制限が一時的であるもの。ということを指します。
身体拘束やその他の行動制限を行うことになっても、その後長期間にわたり身体拘束や
行動制限は行えないということを理解しなければなりません。
先に紹介した「切迫性」「非代替性」が認められたとしても、身体拘束や行動制限はそれに
変わる方法や環境を作り上げるまでの「一時的なものにすぎない」ということで、
介護・看護スタッフは身体拘束や行動制限が始まってからも解除されるまで
「常に身体拘束や行動制限以外の方法を考え続ける」ことが大切です。

※この「切迫性」「非代替性」「一時性」の原則は「全てを満たさなければ身体拘束・行動制限は
できない」ため、どれか1つでも該当すれば身体拘束・行動制限できる。と
勘違いしないように気をつけましょう。

まとめ

高齢者になり、認知症や疾病、障害を理由に施設や病院を利用する高齢者は多いです。
しかし、加速する高齢化社会において施設や病院では、慢性的な人不足や身体拘束などに
対する指導を行う時間がとれず、起こってしまう危険があるのが「身体拘束」です。

身体拘束は高齢者の自由を奪い権利を侵害する危険な行為であり、法律により明確に
禁止されています。拘束によりおこる「身体的弊害」「精神的弊害」「社会的弊害」は、
利用者や他の利用者だけではなく、その家族や介護・看護スタッフへの罪悪感や士気の低下、
誇りの喪失に繋がりかねない行為です。

身体拘束や行動抑制にあたる行為について理解を深め、認知症や疾病、障害があっても
その人らしく生きていけるよう、社会全体で考えていきましょう。

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