全身清拭の7つの留意点|目的や手順も解説

2025.02.10

「全身清拭(せいしき)」には、いくつかの留意点があります。
全身清拭の主な目的は、皮膚を清潔に保ち細菌感染を予防することです。

また、期待できる効果として、血行促進や爽快感が得られるなど多くのものがあります。
この記事では、全身清拭の目的・効果や手順、7つの留意点を解説します。
全身清拭で、どのような点に留意すべきかを知りたい方におすすめの内容です。

全身清拭とは

「清拭」とは、入浴やシャワーが困難な要介護者や患者の身体をタオルで拭くことで、
皮脂や汗、角質を取り除き、身体の清潔を保つためのケアの一つです。

清拭には、全身に対して行う「全身清拭」と、部位ごとに行う「部分清拭」があります。
ここでは、全身清拭の目的と効果について解説します。

 全身清拭の目的

全身清拭の主な目的は、「身体の汚れを落とし皮膚を清潔に保つ」ことですが、
それ以外にも目的があります。
例えば、次のとおりです。

  • ストレス解消や免疫力の向上を図る
  • 皮膚を観察し、床ずれなどの異常を早期発見する
  • 傷口を清潔に保つことで感染症を防ぐ
  • 清拭時に身体を動かすことで関節の硬直(拘縮)を防ぐ

    このように、全身清拭にはさまざまな目的があります。
    目的をしっかり理解しておくことで、より効果的に清拭を行えるようになります。

 全身清拭による効果

全身清拭により期待できる効果は、以下のとおりです。

  1.  身体を清潔に保つことができ、感染症予防になる。
  2. 一度に全身を拭くことができて効率的。
  3. 血行が促進されるため、床ずれの予防にもつながる。
  4.  全身の皮膚の状態を観察できるため、異常を早期発見しやすい。
  5. 爽快感を得られる。
  6.  リラックス効果があり、ストレス軽減や安眠につながる。
  7. 腸蠕動を促し、便通が改善される可能性がある。
  8.  身体の清潔を保持することで、外出や社会活動参加の意欲が高まる。
  9. 対象者との間に信頼関係を築くことも可能。

全身清拭の手順を紹介

全身清拭を行う場合は、事前準備をしっかりと行い、どの部位から順番に拭くかを頭に入れて
おきましょう。

  • 事前準備
    ① 必要な物品の準備をする。
    ② 対象者に清拭を行うことを伝える。
    ③ 対象者の体調が悪くないか、体温や血圧などに異常がないか、食事の前後1時間でないかを
    確認する。
    ④ トイレを済ませておく。
    ⑤ 室温を23~25℃に設定する。
    ⑥ ドアや窓、カーテンを閉める。
  •  全身清拭の基本的な手順
    拭く順番は、「上半身から下半身へ」・「末端から中心へ」が基本となります。
    末端から中心に向かって拭くのは、血行促進とそれによる体温上昇が目的です。
    また、汚れの多い部位ほど後回しにします。

    具体的な流れは、「顔 → 上肢 → 胸部・腹部 → 下肢 → 背部・臀部 → 陰部・肛門」です。

全身清拭の7つの留意点

全身清拭を行う際には、いくつかの留意点があります。
対象者の肌を露出させて直接触れる必要があるため、正しい方法を理解しておかなければ、
対象者の健康を害したり自尊心を傷つけたりすることにつながります。
ここでは、7つの留意点を紹介します。

 1.全身清拭の前に対象者の体調を確認

全身清拭は、対象者の心身状態によっては体力を著しく消耗し、寒さなどから血圧が
大きく変動する可能性もあります。
そのため、清拭の前には必ず対象者本人に体調を確認してください。
また、体温や血圧、脈拍などのバイタルサインのチェックも必ず行うことが必要です。

この時点で、体調やバイタルサインの変化が少しでも見られる場合は、上司や医師・看護師に
相談しましょう。
対象者の体調がよくないときは、無理をせず、日を改めたり部分清拭に変更したりするなどの
判断も大切です。清拭中に具合が悪くなる場合もあるため、対象者の様子に気を配りましょう。

 2.室温を調整しておく

入浴介助や清拭をする際には、急激な温度変化により血圧が激しく上下して
「ヒートショック」が起こりやすいとされています。
そのため、対象者の身体を冷やさないことが何より重要です。

全身清拭時の室温は、「23~25℃程度」が適温とされていますが、適温には個人差があります。
身体を拭きながら、対象者に寒くないか確認しましょう。

濡れたタオルで拭いた後は、必ず乾いたタオルで水分をしっかり拭き取ってください。
皮膚表面に水分が残っていると、蒸発する際に熱が奪われるなどして体温が低下するからです。
また、清拭には入浴のような保温効果はありません。
なるべく手早く行い、清拭していない部分はバスタオルで覆うなどして保温します。
拭き終わったら、すぐに服を着せてください。
全身清拭に時間がかかる場合は、部分清拭に切り替えることで対処が可能です。その場合、
1日ごとに清拭する部位を変え、2~3日に分けて行うとよいでしょう。

 3.必要物品を揃えておく

全身清拭は、手早く行うことが重要なので、事前に必要な物品をすべて揃えておきましょう。
清拭に必要な物品は、例えば以下のとおりです。バスタオルや清拭用タオルは、
多めに用意しておくと心強いです。

  • 洗面器、バケツ
  • お湯(50~55℃くらい)
  • バスタオル(身体の水分の拭き取りだけでなく、プライバシー保護・冷え対策にも使用。2~3枚)
  • 清拭用タオル(顔用・身体用・陰部用と使い分け。多めに用意)
  • 石けん(汚れが多い場合に使用)
  • 使い捨て手袋
  • 着替え一式
  • 保湿剤、爪切り(必要に応じて)

 4.全身清拭の手順を確認しておく

全身清拭では、手早さとともに、対象者の安全やプライバシーへの配慮なども必要です。
そのため、どの部位から行うかの手順や、部位ごとの拭き方・留意点などを頭に入れておくことが
重要です。

拭く順番は、前述のとおり、「上半身 → 下半身」、「末端 → 中心」が基本です。
拭く際には、血流を意識することで、血行改善効果が得られやすくなります。
具体的に拭く部位の順番は、「顔 → 上肢 → 胸部・腹部 → 下肢 → 背部・臀部 → 陰部・肛門」です。
ただし、対象者の状況によっては、順番を一部入れ替えるといった対応が必要になる場合もあります。

 5.プライバシーに配慮する

全身清拭は身体の露出を伴うことから、対象者は羞恥心を感じる場合があります。
また、陰部など部位によっては、自尊心を傷つけてしまうおそれもあります。

そのため、プライバシーには十分配慮し、カーテンやドア、窓は必ず閉めましょう。
そして、清拭に必要な部位だけを露出し、拭いていない部位はバスタオルを掛けるなど
配慮してください。
また、対象者の緊張を解くために、楽しい会話を心掛けて、コミュニケーションを行うことも
重要です。

 6.対象者の皮膚を傷つけないようにする

全身清拭では、肌を強くこすりすぎないことにも注意してください。
強くこすると、必要な皮脂まで落としてしまい、肌が乾燥しやすくなったり、痛みを感じたり
することがあります。

また、高齢者や皮膚が弱い方の場合は、軽くこするだけで傷つけてしまう可能性もあります。
皮膚の状態や好みの強さを確認しながら、その人に合った強さで拭きましょう。

身体を拭きながら、皮膚トラブルがないか確認することも重要です。
特に「床ずれ」は、痛みを伴うだけでなく感染症を引き起こすリスクもあるため、早期発見と
適切な処置が欠かせません。
皮膚に異常が見つかった場合は医師に相談し、悪化の予防や治療につなげることが大切です。

 7.食後や食前は避けるようにする

全身清拭は、基本的に食事の前後1時間を避けて実施しましょう。
その理由は、以下のとおりです。

  1. 皮膚表面の血行が促進されると胃腸の動きが悪くなり、消化不良につながる。
  2.  食前食後は血糖値や血圧の変動が起こりやすい。
  3. 食後は消化吸収のために血液が胃腸に集中し、体力も必要なため疲れやすい。

    全身清拭では、介助者だけでなく対象者にも体力が必要です。
    そのため、リハビリテーションなどで体力が消耗している時間帯も避けるようにすると
    よいでしょう。

まとめ

今回は、全身清拭の留意点を中心に解説しました。
・全身清拭とは、入浴が難しい対象者の全身をタオルで拭くこと。
・目的は、身体の汚れを落とし皮膚を清潔に保つこと。
・効果は、「血行促進・床ずれ予防」・「皮膚トラブル早期発見」・「爽快感」など。
・基本は「上半身 → 下半身」・「末端 → 中心」で、具体的な流れは
「顔 → 上肢 → 胸・腹 → 下肢 → 背・尻 → 陰部」。
・留意点は、「事前に体調チェック」・「身体を冷やさない」・「必要な物は揃えておく」・「手順を確認」・「プライバシーに配慮」・「力加減に注意」・「食前食後は避ける」。

全身清拭の目的や効果、手順、留意点などを理解し、介護対象の方が受けてよかったと
思えるようなケアを心掛けましょう。

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