高齢者虐待防止法についてわかりやすく解説|虐待を防止するための対策も

2025.03.03

高齢者虐待は、加齢に伴い支援が必要となる高齢者が、身体的・精神的に大きな苦痛を受ける
深刻な問題です。
高齢化が進む日本では、高齢者虐待の件数が増加しており、社会全体で防止することが
求められています。特に、家庭内だけでなく介護施設や医療機関など、さまざまな環境で
発生する可能性があるため、適切な知識と対策が必要です。

高齢者虐待を防ぐために制定された「高齢者虐待防止法」は、高齢者を守るための重要な法律です。
また、高齢者虐待にはさまざまな種類があり、身体的虐待や心理的虐待のほか、経済的虐待や
介護の放棄なども含まれます。

本記事では、高齢者虐待防止法の概要や高齢者虐待の種類、防止対策について詳しく解説します。
また、万が一高齢者虐待を発見した場合の通報先や対応方法についても紹介します。
高齢者が安心して暮らせる社会を実現するために、適切な知識を身につけていきましょう。

高齢者虐待防止法とは

高齢者虐待防止法(正式名称:高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)は、2006年に施行された法律で、高齢者が虐待を受けることを防ぎ、虐待が発生した場合には
迅速に対応することを目的としています。

この法律では、高齢者虐待の定義、通報義務、自治体の対応方針などが定められており、
虐待の早期発見・防止に向けた具体的な仕組みが構築されています。
特に、家庭内での虐待だけでなく、介護施設や医療機関における虐待も対象となっており、
介護事業者には虐待防止のための対策が求められています。

また、虐待の疑いがある場合には、速やかに市町村へ通報する義務があることも特徴です。
高齢者虐待防止法が施行されて以降、自治体や介護事業者による研修や啓発活動が
進められていますが、それでも虐待はゼロにはなっていません。

今後も、法律を適切に活用しながら、高齢者を守るための取り組みを強化していくことが重要です。

高齢者虐待の5つの種類

高齢者虐待には、さまざまな形態がありますが、大きく分けると「身体的虐待」「心理的虐待」
「性的虐待」「経済的虐待」「介護・世話の放棄・放任」の5つに分類されます。

虐待は、加害者が意図している場合もあれば、気づかないうちに行ってしまっているケースも
あります。たとえば、介護者が疲れやストレスから適切なケアを行えず、結果的に虐待となって
しまうこともあります。
そのため、虐待の種類を理解し、適切な対応を取ることが重要です。
以下、それぞれの虐待について詳しく見ていきましょう。

 身体的虐待

身体的虐待とは、高齢者に対して暴力を振るうことを指します。
たとえば、殴る、蹴る、つねるなどの直接的な暴力のほか、無理やり食事を口に押し込む、
必要な移動を手伝わず放置するなどの行為も含まれます。また、強く腕を引っ張る、
ベッドや車いすに縛り付けるといった行為も虐待とみなされることがあります。

家庭内での介護において、介護者がストレスや疲労を感じ、感情的になって手を上げてしまう
ケースもあります。
また、介護施設においては、職員の対応が乱暴になったり、制限が必要ないのに拘束を
行ったりすることが問題視されることがあります。

身体的虐待は外傷として現れることが多いため、周囲が気づきやすいですが、高齢者本人が
「自分が悪い」と思い込み、訴えないことも少なくありません。
虐待の兆候を見逃さず、早めに適切な対応を取ることが大切です。

 心理的虐待

心理的虐待とは、言葉や態度によって高齢者を傷つける行為を指します。
たとえば、「何もできないくせに」「迷惑ばかりかける」などの暴言を浴びせたり、
無視をしたりすることが該当します。また、大声で怒鳴る、冷たい態度を取る、過度に
命令口調になるといった行為も、高齢者にとって精神的な負担となります。

心理的虐待は目に見えにくいため、発見が遅れがちです。
しかし、被害を受けた高齢者は、不安感や無力感を抱え、うつ状態になったり、
自信を失ったりすることがあります。
介護者自身も、ストレスを抱えて感情的になりやすいため、適切なケアと冷静な対応を
心がけることが重要です。

 性的虐待

性的虐待は、高齢者に対して不適切な性的行為を強要することを指します。
無理やり身体に触れる、下着を無理に脱がせる、性的な言葉をかけるといった行為が含まれます。
特に、認知症の高齢者や寝たきりの方など、自分の意思を表現しにくい人が被害に
遭いやすい傾向にあります。

性的虐待は、加害者が家族や介護職員であるケースが多く、被害を受けた高齢者が
恥ずかしさや恐怖心から誰にも相談できないことが問題となっています。

また、施設内で発生する場合は、同じ入居者や職員が加害者となることもあります。
性的虐待を防ぐためには、介護現場での適切な教育と監視体制の強化が必要です。

 経済的虐待

経済的虐待とは、高齢者の財産や年金を不当に管理・使用することを指します。
たとえば、高齢者の銀行口座から勝手にお金を引き出す、年金を生活費に充てず使い込む、
財産を無理やり売却させるといった行為が含まれます。

特に、親族が加害者となるケースが多く、高齢者が「家族だから」と我慢してしまう
ことも少なくありません。

経済的虐待は、発見が遅れることが多く、気づいたときには高齢者の財産がほとんど
残っていないというケースもあります。
そのため、第三者による適切な財産管理や、成年後見制度を活用することが重要です。

 介護・世話の放棄・放任

介護・世話の放棄・放任とは、高齢者が適切なケアを受けられない状態にすることを指します。
たとえば、食事を与えない、入浴させない、必要な医療を受けさせないといった行為が含まれます。
また、介護を完全に放棄し、高齢者を孤立させることも虐待に当たります。

介護者が意図的に放棄する場合もあれば、介護疲れや経済的な理由から十分なケアが
できなくなる場合もあります。
そのため、介護負担を軽減するための支援制度を活用し、適切なサポートを受けることが重要です。

介護事業者による高齢者虐待を防止するための対策

介護事業者における高齢者虐待は、決してあってはならない問題ですが、現実には
報道などでも取り上げられるように、施設内での虐待事例が発生しています。

介護職員が過剰なストレスを抱えていたり、職場環境が整っていなかったりすると、
虐待につながるリスクが高まります。
そのため、事業者は虐待防止に向けた具体的な対策を講じることが求められています。
ここでは、虐待を防ぐための重要な取り組みについて詳しく解説します。

 虐待防止のための研修の実施

介護事業者が虐待を防ぐためには、職員への適切な研修が欠かせません。
虐待とはどのような行為を指すのか、どのような言動が心理的虐待に該当するのかといった
基本的な知識を学ぶことで、職員一人ひとりの意識が高まります。

また、研修では具体的なケーススタディを用いて、実際の現場でどのように対応すべきかを
考える機会を設けることが重要です。たとえば、認知症の利用者が介護に対して強い抵抗を示した際、どのように接すればよいのか、また職員がストレスを感じたときにどのように対処すればよいのかを
学ぶことで、適切なケアにつながります。

さらに、研修は一度きりではなく、定期的に実施することが理想的です。
新しく入職した職員だけでなく、ベテラン職員も含めて継続的に学ぶことで、
虐待防止への意識を高く保つことができます。

 職員が働く職場の環境改善

介護現場における虐待の背景には、職員の負担の大きさや労働環境の問題が関係している
ことが少なくありません。人手不足による過重労働が続くと、職員の疲労やストレスが蓄積し、
結果として高齢者に対する対応が粗暴になってしまうことがあります。

そのため、職場環境を改善し、職員が安心して働ける体制を整えることが虐待防止の鍵となります。
具体的には、シフト管理を適切に行い、職員一人あたりの負担を軽減することが重要です。
また、休憩時間の確保や、心身のリフレッシュを図る取り組みを導入することで、
職員の疲労を防ぐことができます。

加えて、職場内でのコミュニケーションを活発にし、悩みやストレスを共有しやすい環境を
整えることも大切です。
管理者やリーダーが職員の状況を適切に把握し、サポートすることで、働きやすい職場が
実現します。

 職員のストレスケア・コミュニケーション強化

介護の現場では、利用者への対応に加え、家族との関係性、同僚との連携など、
さまざまな場面でストレスを感じることがあります。このストレスが適切に解消されないまま
蓄積されると、職員の精神的な余裕がなくなり、虐待につながるリスクが高まります。

そのため、事業者は職員のメンタルケアを重視し、ストレスを軽減できる環境を整えることが
求められます。
ストレスケアの一環として、定期的なカウンセリングの機会を設けることが有効です。
外部の専門家による相談窓口を設置することで、職員が気軽に悩みを打ち明けられる場を
提供できます。

また、職場内でのコミュニケーションを促進し、チームで支え合う風土を醸成することも重要です。
たとえば、定期的なミーティングを開催し、職員同士が意見や情報を交換する機会を増やすことで、
孤立を防ぐことができます。

 虐待防止マニュアルの作成・確認

虐待を未然に防ぐためには、具体的な対応策をまとめたマニュアルを作成し、全職員が
共通認識を持つことが必要です。マニュアルには、虐待の定義や事例、発生しやすい場面、
未然に防ぐためのポイントなどを明記し、職員が適切に対応できるようにします。

また、マニュアルの作成後は、それを形骸化させないために、定期的な見直しを行うことが重要です。介護現場の状況は常に変化しているため、新たな課題が発生した場合には、それに応じた
対策を追加することが求められます。

マニュアルの内容を周知徹底するために、研修と組み合わせて活用するのも効果的です。

 クレーム受付の体制を整備

虐待を防止するためには、利用者やその家族が問題を指摘しやすい環境を整えることが重要です。
そのため、介護事業者はクレーム受付の体制を明確にし、利用者や家族が安心して相談できる
仕組みを構築する必要があります。
たとえば、専用の相談窓口を設置し、第三者が対応することで、公平な立場から問題を
検討できるようにするのも一つの方法です。また、苦情が寄せられた際には、迅速かつ
適切に対応し、問題が再発しないように改善策を講じることが求められます。

さらに、匿名での相談が可能なシステムを導入することで、家族や職員が萎縮せずに意見を
伝えられる環境を整えることも効果的です。
こうした取り組みを積極的に行うことで、施設内の透明性を高め、虐待の防止に
つなげることができます。

高齢者虐待を発見した時は?通報先・通報の流れ

高齢者虐待を防ぐためには、虐待を早期に発見し、適切に対応することが不可欠です。
虐待を疑う場面に遭遇した際、「もしかしたら…」と思っても、確信が持てない場合は
通報をためらってしまうこともあるかもしれません。

しかし、虐待は被害を受ける高齢者の命や健康に直結する重大な問題であり、
速やかな対応が求められます。
通報を行う際には、できるだけ具体的な情報を整理し、正確に伝えることが大切です。
通報の基本的な流れは以下の通りです。

  • 虐待の状況を把握する 
    ・高齢者の身体的・精神的な状態 ・虐待を行っている可能性のある人物の言動 
    ・虐待が疑われる日時や場所
  • 適切な通報先を選ぶ 
    ・緊急性が高い場合は警察 
    ・虐待が疑われるが確証がない場合は地域包括支援センターや市区町村窓口
  • 通報内容を伝える 
    ・「いつ、どこで、どのような虐待が行われたか」 ・被害を受けている高齢者の名前や状況 
    ・虐待を行っている可能性のある人物の情報

    虐待を見つけた際、「確信がないから」「家族の問題だから」とためらうことなく、
    まずは相談することが大切です。
    小さな異変を見逃さず、早期に対応することが、高齢者の命を守ることにつながります。

まとめ

高齢者虐待は、決して許されるものではありません。
しかし、介護現場や家庭内では、さまざまな要因が絡み合い、虐待が発生してしまうことがあります。そのため、虐待を未然に防ぐための仕組みづくりや、職員や家族への支援が不可欠です。

まず、虐待を防ぐためには、「高齢者虐待の種類」を理解し、どのような行為が虐待にあたるのかを
正しく認識することが重要です。また、介護事業者においては、職員の研修の実施や職場環境の改善、ストレスケアの強化などを通じて、虐待が発生しにくい環境を整える必要があります。

虐待を防ぐためには、社会全体での意識向上が不可欠です。
私たち一人ひとりが「おかしい」と感じたときに声を上げることで、高齢者が安心して暮らせる
社会を実現することができます。
どんな小さな気づきでも、行動することが虐待防止につながることを忘れずに、
支え合いの輪を広げていきましょう。

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