高齢者の脈正常値はどれくらい?測り方や変動する主な要因も紹介

2025.03.11

高齢者の脈拍の正常値は「50~70回」です。加齢により低くなる傾向があります。
脈拍は、血圧などと同じく健康状態を知るための重要な情報です。
普段の脈拍を把握しておくことで、病気の早期発見につながるのです。

この記事では、脈拍の測り方や高齢者の脈拍正常値、高齢者で変動する原因などを解説します。
ご自身や家族の脈拍が正常値と比べてどうなのか知りたい方や、介護の現場で活躍中の方にも
役立つ内容です。

脈拍とは

「脈拍」と「心拍数」について、それぞれの定義や違いを理解している人は多くないため、
両者はよく混同されます。
また、一般的に「脈拍の測り方」について学ぶ機会は少ないため、正しい方法はあまり知られて
いません。ここでは、そのような脈拍についての基本事項を解説します。

 脈拍と心拍数の関係

「心拍数」とは、「1分間に心臓が拍動する回数」です。
心拍数は、一定ではなくさまざまな要因で変化するため、5分以上安静にしてから測った
「安静時心拍数」が使われます。

「脈拍数」とは、「体の動脈が1分間に拍動する回数」です。
心臓から送り出された血液により起こる拍動が動脈に現れたものであるため、
通常は「心拍数=脈拍数」になります。

しかし、不整脈がある場合は、心拍数と脈拍数が一致しないこともあります。
特に、「心室性期外収縮」、「頻脈」、「心房細動」などの不整脈では、両者が一致しないことが
多いです。
健康診断などで不整脈を指摘された場合は、自覚症状の有無にかかわらず、
循環器内科を受診しましょう。

脈拍の測り方

市販の脈拍計などがない場合は、利き手の示指・中指・薬指の3本の指を、反対側の手首の
動脈に当てて測定
します。
具体的な測定方法は、以下の流れです。

  1.  橈骨(とうこつ)動脈に示指・中指・薬指を軽く当てる
    「橈骨動脈」は、手首の親指側の腱と骨の間にあります。指を立てると力が入って脈が
    触れにくくなるので、寝かせて軽く当てます。
  2. 脈拍を触知できたら測定する
    秒針付きの時計などを使い、原則として1分間測定します。脈拍数だけでなく、
    リズムや強弱の不整がないかも確認してください。
  3. 記録する

高齢者の脈拍の正常値

一般的に、加齢により脈拍は低くなる傾向があります。
成人の正常値は「60~90回/分」、高齢者の正常値は「50~70回/分」とされることが多いです。
高齢者になると、身体活動量や基礎代謝、筋肉量が減少することで、酸素消費量が減少します。
そのため、心臓が血液を送り出す回数が減り、脈拍が低下するのです。

ただし、正常値はあくまで目安です。
個人差も大きく、体調や精神状態などによっても変動します。
強いストレスや運動、入浴、アルコール・カフェインの大量摂取などで、脈拍は高くなりやすいです。しばらく安静にして正常値に戻るのならば、問題ありません。
また、日常的にスポーツをしている人は、心肺能力が高く脈拍が低いことが多いです。
ご自身の安静時の脈拍平均値を把握しておくとよいでしょう。

高齢者の脈拍が変動する主な要因

高齢者になると、脈拍が変動しやすくなります。
ここでは、高齢者の脈拍がどのような要因で、正常値から変動するのか解説していきます。
一時的な変動は特に問題ありませんが、何らかの症状がみられ病気が疑われる場合は、
早期の診断・治療が必要です。

 心臓機能の低下

1つ目の要因は、「心臓機能の低下」です。
心臓のポンプ機能が低下すると、一度に送り出せる血液量が減少するので、心拍数が増加します。
以下の病気が代表的です。

  1.  心筋梗塞
    冠動脈が血栓で詰まり、心臓の一部が酸欠により壊死した状態です。
    激しい胸痛が続き、心停止に至ることもあります。
  2.  心不全
    ポンプ機能が弱まり、全身に血液をうまく送り出せない状態です。
    初期症状として、息切れや足のむくみなどがみられます。日本の心疾患死の約4割を占めます。
  3. 弁膜症
    4つの弁のいずれかに異常が発生し機能が低下した状態です。症状は、息切れや動悸、
    胸の痛みなどで、進行すると心不全や不整脈を合併します。

 体温の上昇

2つ目の要因は、「体温の上昇」です。
風邪などによる発熱や入浴などにより、体温が上昇し、血管が拡張して血圧が下がります。
血圧を一定に保つため、心拍数が増加するのです。

ただし、高齢者では、このしくみがうまく働かないことがあり、それが冬場の入浴時の
ヒートショックによる事故につながります。
脱衣所や浴室が寒いと血管が収縮して血圧が急上昇し、熱い浴槽に浸かると血管が拡張して
血圧が急激に下がります。通常は、ここで脈拍が高くなりますが、80代以上では高くなりにくい
ことがわかっています。

血圧の急激な変化により心臓に過大な負荷がかかって、最悪の場合は脳卒中や心筋梗塞などが
引き起こされます。
脱衣所を暖かくしたり、お湯の温度を低めにしたりといった対策が必要です。

 大量の出血

3つ目の要因は、「大量の出血」です。
大量に出血すると、循環する血液量が減少し血圧が低下します。血圧低下を防ぐために、
心拍数を増加させ、血圧を保とうとするのです。

高齢者では、血液をサラサラにする薬を飲んでいたり、血小板が減少していたりするため、
出血が止まりにくい傾向があります。そのため、若年者に比べて出血も多くなりがちです。
大きな傷でなくても出血が長時間続いてしまうと、貧血傾向になることもあるため注意が必要です。

 心臓の電気信号機能の低下

4つ目の要因は、「心臓の電気信号機能の低下」です。
心臓の電気信号を出す場所の機能が低下すると、脈拍が遅くなります。
息切れやだるさ、足のむくみ、めまいなどの症状がある場合は、以下の病気が疑われ、早期治療が
必要です。

  1.  洞不全症候群
    心臓の右心房にある「洞結節」に異常が生じ、電気刺激が減少または停止する病気です。
    失神などの症状が見られることもあります。
  2.  房室ブロック
    電気信号を心房から心室へ伝える「房室結節」の機能低下により起こる病気です。
    失神や心不全、さらには心停止につながることもあります。

 不整脈

5つ目の要因は、「不整脈」です。
自覚症状がないことも多いですが、高齢者の不整脈の症状としては、動悸、息切れ、だるさなどが
あります。また、めまい、失神、けいれんなどが起こることもあります。
それらは不整脈により心臓から押し出される血液量が減少し、脳への血液が不足することが原因です。

特に加齢により増える不整脈が、「心房細動」です。
心房がけいれんし、動悸・息切れ・めまいなどの症状が現れます。心房内に血栓ができやすく、
血栓が脳の血管まで運ばれて詰まると「脳梗塞」を引き起こし、死に至ることもあります。

日頃から脈拍を測定することが大切

高齢者の脈拍の正常値「50~70回/分」は、あくまで目安です。
心臓疾患の人は脈拍が高かったり、日常的に運動をしている人は徐脈傾向だったりします。
このように、同じ年代の人でも、基礎疾患や生活スタイルの違いで大きく異なります。

自身の普段の脈拍を頭に入れておき、異常値が出た場合に、的確に判断して適切に対応することが
重要です。運動や入浴などにより脈拍は上がりやすいため、異常値が出た場合は測定前の行動を
考慮して、時間をおいて再測定してください。

毎日、ほぼ同じ時間に同じ条件で測定し記録をつけることで、自身の正常値を把握しておきましょう。それにより、病気の早期発見や予防につながります。

まとめ

今回は、高齢者の脈拍について解説しました。
・通常は「心拍数=脈拍数」だが、不整脈により一致しないことも。
・測り方は、利き手の示指・中指・薬指を反対の手首の橈骨動脈に当てる。
・高齢者の正常値は「50~70回/分」。加齢により低下傾向。
個人差も大きく基礎疾患などでも変動し、あくまで目安。
・高齢者の脈拍が変動する要因は、「心臓のポンプ機能低下」・「体温上昇」・「大量出血」
・「心臓の電気信号機能の低下」・「不整脈」。
・自分の普段の脈拍を把握しておくことで、病気の早期発見や予防につながる。

今後の人生を健康に過ごすためにも、毎日の測定で自身の脈拍数を把握しておきましょう。

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