権利擁護とは?意味や読み方、どんな事業なのかも詳しく解説!

2023.07.14
  • 介護の豆知識

近年の福祉の現場では、「権利擁護」という事が重要視されています。 高齢者や障がい者は、病気や障がい、経済面の影響を受けて様々な権利が制限されます。

また、権利や自分の意思を上手く表現できず不利益を受けることもあります。 高齢者や障がい者が不利益を受けることを防ぎ、自分らしい生活をするためにサポートすることを権利擁護と言います。 本記事では、権利擁護に関する以下のことをわかりやすく説明します。

  • 権利擁護の概要
  • 権利擁護の種類
  • 権利擁護のための取り組み

ぜひ最後までお読みください。

権利擁護とは?読み方や意味なども解説

権利擁護とは、具体的にはどのような事を指すのでしょうか。

「権利擁護」という言葉の概要や意味についてご紹介します。

権利擁護の概要

権利擁護とは、高齢者や障がい者など、立場が弱いとされている方の権利を守るための取り組みを指します。 ハンディキャップのある方は、ひとりで物事を判断したり実行していくことが難しい場合があります。

謝った判断をした結果、適切な支援を受けられなかったり財産を失ったりするなどの権利侵害が起こることも少なくありません。 たとえば認知症がある方の場合、理解力や判断力が低下しているため、介護サービスによる手助けが必要だと判断できなかったり、契約できないためにサービスを利用できないなど、権利が制限されます。

判断力の低下を理由に、預金の出し入れや不動産の売買などもできなくなるため、生活していくことが難しくなってしまいます。 家族などによる虐待がある場合にも、本来もっている権利を侵害されたり、その人がその人らしく生きる「人権」の侵害にも繋がります。 これは、障がい者や児童などの判断力が充分でない方々にも同様に起こる問題です。

権利侵害の問題を解決するために、様々な権利擁護事業が設けられています。 事業を活用することで、ハンディキャップがある方の権利を守っているのです。

読み方と漢字の意味

権利擁護の読み方は、「けんりようご」です。

権利とは、物事を主張したり行ったりする資格や能力のことです。 擁護は、「危害を受けることから守ること」を意味しています。 似たような言葉に「保護」「養護」などがありますが、いずれも世話をする、弱者を守るなど生活面でのサポートの意味をもちます。

擁護の場合は、危害から守るために権利や法律面から支援を行います。 ですから「権利擁護」は、物事の主張や実行が出来ないために受ける危害から守ることを指しているのです。

権利擁護の種類

権利擁護といっても、対象者が高齢者か、障がい者か、子どもかといった状況により、関わり方や支援機関が異なります。 対象者ごとの権利擁護についてご説明します。

高齢者の権利擁護

高齢になると、認知症や病気の影響により判断力が低下したり、コミュニケーションが上手くとれなくなる事が増えていきます。 その結果、自分らしい生活を送れなくなる事や、財産や生命を脅かす問題が起きる事が心配されます。

高齢者の権利擁護では、意志決定や財産管理をサポートすることにより権利侵害から守り、安心して生活を続けられるよう働きかけます。 支援につなげるための相談窓口として、各地域に「地域包括支援センター」が設置されています。

地域包括支援センターでは、相談内容に応じて成年後見制度や日常生活自立支援事業などの、相談者に適した権利擁護事業への繋ぎ役を担います。 また、介護者や介護施設職員による高齢者虐待も、高齢者の権利を奪う行為です。

高齢者虐待を防ぐ取り組みも行われており、虐待が疑われる場合、地域包括支援センターが通報窓口となり対応します。 通報を受けると関係機関と協力し、高齢者の安全や人権を守るための働きかけをします。

障がい者の権利擁護

障がい者の場合も、知的障がいや精神障がいのために判断能力が不十分であったり、自分の意思を上手く伝えられない場合があります。

そのような場合は、高齢者の権利擁護と同様に意志決定や財産管理のサポートをすることで、地域での生活を続けられるよう支援します。 介護者や施設職員による虐待がある場合も、関係機関が協力し対応しています。

平成28年には、障がい者差別解消法が施行されました。 障がいがあることを理由に、飲食店の利用やアパートへの入居、就業などを制限されたり、障がいに対する配慮をしてもらえずに不利益を受けるケースはあとを絶ちません。

障がい者の権利擁護のために、法律面でも支援が行われています。 障がい者にも各種支援に繋げるための窓口として、「機関相談支援センター」が設置されており、介護や就労に関する相談、虐待の通報窓口などの役割を担っています。

権利擁護事業の種類

“判断力が充分でない方が、資産を管理したり誰かに預ける事は、詐欺被害にあうなどのリスクを伴います”

資産を預けたり手助けを求める場合も、自己判断では悪質な業者による詐欺などの被害にあうリスクは高くなります。 そこで、高齢者や障がい者の財産を守るために以下のような権利擁護事業が展開されています。

日常生活自立支援事業

ある程度の契約能力はあるが、ひとりで日常の金銭管理や福祉サービスの契約をするには不安がある、という場合には「日常生活自立支援事業」の利用を検討します。

この事業では、

  • 金銭管理サービス
  • 財産保全サービス
  • 契約支援サービス

の3つのサービスが提供されます。 利用対象は高齢者や障がい者で、福祉サービスの契約や福祉サービスの利用料、公共料金の支払いをひとりで行うのが難しい方です。

「支援をお願いしている」と言うことは、理解できる程度の認知機能が保たれていることも利用条件のため、申し込み時には利用できる状態か担当者が確認を行い、審査を経て利用に至ります。 申し込みは、各市区町村の社会福祉協議会で受け付けています。 利用料は、支援1回あたり1,000円~2,000円程度で、財産管理の支援としては安価です。

金銭管理サービス

判断力が低下すると、請求書の内容を理解できずに支払いを忘れてしまったり、お金を使いすぎて次の年金支給日前に手持ち金がなくなる、ということが起こります。

日常生活自立支援事業では、利用者の通帳を預かり税金や公共料金、医療費、家賃などの支払いを代行します。 また、収入に応じた支出や貯金の計画をたて、毎月の生活費は支援員が本人の元に届けます。

これらの支援をうけることで、滞納による生活環境の悪化を防ぎながら自宅での生活を続けられるようになります。

財産保全サービス

認知症高齢者に多い困り事が、貴重品の紛失です。 手元に通帳があることで、お金を使いすぎたり詐欺被害にあうことも考えられます。

財産保全サービスでは、年金証書や保険証書、通帳などの証書類や印鑑を預かることが出来ます。 預かった財産は、銀行の貸金庫で保管されます。

契約支援サービス

介護や障がい福祉サービスを利用する時には、各サービス事業と契約を結びます。 高齢者や障がい者の場合、細かな内容までは理解できず情報収集も得意でないため、思い描いていた支援を受けられない、ということも少なくありません。

支払いが上手く出来なければ、介護サービスを打ち切らなければならない、ということにもなりかねません。 そのような不利益を防ぐため、契約支援サービスにより福祉サービス利用の支援をします。

成年後見制度

日常生活自立支援事業の契約も難しい場合や、財産管理や契約全般の支援を受けたい場合は、成年後見制度の利用を検討します。

成年後見制度は、認知症や精神障がい、知的障がいのために判断能力が不十分な場合に、後見人(または保佐人、補助人)が本人に代わり財産の管理や契約締結、取消を行う制度です。相続の手続きや、不動産の処分なども行えます。 後見人は家庭裁判所に申し立てることで選任され、法務局に登記されます。 申し立ての際は、家族関係や財産の状況、意思の診断書などを提出し、本人に適した判断が下されます。

成年後見制度には、 ・法定後見制度 ・任意後見制度 の2種類があり、本人の状態により選択します。 後見人等は、年に1回、家庭裁判所に資産の状況などを報告する必要があり、不正が起こらないような仕組みになっています。

法定後見制度

利用を検討する時点で判断能力が低下している場合は、「法定後見制度」を利用します。 法定後見制度は、家庭裁判所に申し立てをすると、本人の判断能力に応じて、「後見人」「保佐人」「補助人」のいずれかが選任されます。

後見人等には、親族や知人のほか、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職から、その人に適した人が選ばれます。 後見人等は、日常の金銭管理の他、定期預金などのまとまった資産の解約、土地の処分などの資産全般の管理ができ、本人の利益を考えながら支援していきます。 後見人がいることで認知症であっても、「老人ホームの支払いに当てるために自宅を売る」などの行為も可能になります。

また、契約締結を代行することにより、不利益な契約を結ぶことを防ぐ他、本人が誤って結んでしまった契約を取り消すこともできます。 利用料(報酬)は資産額や支援内容に応じて決定し、1ヶ月あたり2万円前後が相場です。

後見人が弁護士であったり、資産が多いと3~4万円になることもあります。 報酬の支払いが難しい場合、補助してくれる自治体も増えているため、諦めずに相談してみると良いでしょう。 また、成年後見制度の申し立ては、4親等以内の親族または本人が行うことが基本です。 ですが、該当する親族がおらず、制度が必要な場合は自治体が支援してくれる場合があるため、相談するとよいでしょう。

任意後見制度

まだ判断能力が落ちていないが今後に備えたいという場合は、任意後見制度を利用できます。 任意後見制度は、将来判断能力が低下した場合にお願いしたい内容や、お願いしたい人をあらかじめ登録しておきます。

登録の時点では、各都道府県にある「公証役場」で、取り決め内容をまとめた公正証書を作成します。後見人になる約束をした人は「任意後見人」として登記されます。 判断能力が低下したら、4親等以内の親族や、任意後見人が家庭裁判所に申し立てし、任意後見監督人を選任することで後見人としての支援がはじまります。

法定後見制度と違い、任意後見制度は後見人を本人の意思で自由に選べます。 信頼している親族などにお願いできる点は安心です。 最近は、終活の一環としても注目されています。 また、企業やNPO法人などが任意後見人を引き受ける事業を行うことも増えています。

権利擁護センターとは?

権利擁護支援が必要な方の増加に伴い、権利擁護センターを設置する自治体が増えています。

権利擁護センターは、高齢者や障がい者、その家族などに対して、権利擁護に特化した支援をしています。

主な業務は、 ・成年後見制度の利用促進、手続きの支援 ・権利擁護に関する相談窓口 ・日常生活自立支援事業の申請相談、事務 ・法人後見業務 などです。 権利擁護支援は、相談数の増加や複雑化により、より高度な知識を求められることが増えています。 そこで、権利擁護センターが中心になり、弁護士や司法書士などの専門家とも協力しながら支援できる仕組み作りが期待されています。

まとめ

ここまで、権利擁護についてご説明しました。要点を以下にまとめます。

  • 権利擁護とは、高齢者や障がい者の権利が制限されるのを防ぎ、自分らしく生活するために支援すること
  • 権利擁護では、意志決定や財産管理をサポートするほか、虐待防止の取り組みも行なわれている。
  • 権利擁護のための事業として、日常生活自立支援事業や成年後見制度が活用されている。
  • 相談機関には、地域包括支援センター、基幹相談支援センター、権利擁護センターなどがある。

これらの情報が、少しでもお役にたちますと幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。

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